情熱のアッパカパー要塞
これから、アッパカパー要塞の人間を捕まえて、小イジアの居場所を聞き出す予定であった。
スカイ達は、崖沿いの道を更に歩いて霧の谷鉄橋のミドルン王国側の検問所に差し掛かった。
霧に包まれた山小屋があって、ミドルン王国の国旗が、壁に貼り付けられてあるのが、辛うじて見えた。
「スカイ。どうするか、何となく、トンネルに入る決心がつかずに、霧の谷鉄橋まで来てしまった」
マグギャランが、今頃になって躊躇した声で言った。
「マグギャラン、コロン姉ちゃん覚悟を決めろよ。俺達は、このまま、この国境を知らん顔して通り抜ける」
スカイは言った。
「やはり、そう来るかスカイ。俺達がもし、国境で誰何されて捕まったらどうするのだ」
マグギャランは言った。
「バレたら捕まる前にミドルン側に走って逃げる」
スカイは言った。
「何てデタラメな作戦なんだスカイ。もう少しマシな作戦を考えろと、さっきから言っているだろう」
マグギャランは辺りをキョロキョロと
見回しながら右手を口の横に当てて小声で言った。
「取りあえず検問所を通るぞ。コロン姉ちゃんもパスポートを取りだしておけよ」
スカイは言った。
そしてスカイ達は歩いて、ミドルン王国側の国境の検問所に来た。イシサ側の国境は濃霧が立ちこめていて見えなかった。いや、ミドルン王国側の検問所自体も見えないぐらいの濃い霧が立ちこめていた。
「あんた達、冒険屋だろう」
ミドルンの兵士が検問所から出てきて話しかけてきた。髭を生やした中年の男だった。
「おう、そうだよ」
スカイは言った。
「コラ、スカイ。ばらしてどうする」
マグギャランが真面目な顔でスカイの腕を引っ張った。
「ロード・イジアの息子を奪還するんだってな兄ちゃん、まだ十五ぐらいで苦労しているな」
兵士がワインの匂いのする瓶をラッパ飲みしながら言った。まだ、朝の七時ぐらいのはずだった。
「何で、それを知っているのだ。もしかして有名なのか」
マグギャランは辺りをキョロキョロと見回しながら言った。
「国境の検問所で使う携帯電話に偉いさんから電話が入ってな。冒険屋のパーティが来てロード・イジアの息子を奪還してきたら、知らん顔して通すように言われたのさ」
兵士が霧で覆われた鉄橋の向こう側をワインの瓶を持った手で示しながら言った。
霧で覆われて向こう側が見えない鉄橋にはぼんやりと明かりが灯されているのが見えた。
スカイ達は出国の手続きをして霧の谷鉄橋を歩いていった。
霧が濃くてスカイ達は数メートルも離れていないのに、お互いの姿が見えなくなった。
「おい、マグギャランにコロン姉ちゃん居るか?」
スカイは声を掛けた。
「ああ、辺りが真っ白で今、何処を歩いているのかさえ判らないぞ」
マグギャランが返事をした。
「…うん」
コロンの声も聞こえて来た。
「取りあえず、鉄橋の手すりを伝って真っ直ぐ進んでいくんだ」
スカイは言った。
そしてスカイ達は鉄橋の手すりを伝ってイシサ聖王国側の国境の警備所に辿り着いた。
ここまで来ると大分霧が薄くなっていた。投光器がミドルン王国側の国境に向かって光を放っていた。
灰色の軍服を着た剣を腰に下げた兵士達にスカイ達は誰何された。
「止まれ」
兵士達はスカイ達を手で制止した。
スカイ達は止まった。
「人数は何人だ」
兵士達が言った。
「3人」
スカイは答えた。
「どんな用事で、国境の通過を」
兵士達が言った。
「仕事で」
スカイは言った。
「どんな仕事ですか」
「冒険屋の仕事」
スカイは言った。
マグギャランが、しまった!といった顔をして固まっていた。だがスカイはシラを切った。
「随分と人気のない道を通りますね。なぜ、この霧の谷鉄橋から国境を越えようと思ったのですか」
イシサの灰色の制服を着た係官が上目遣いで言った。
「気が向いたから」
スカイは言った。
確かに概ね間違いではなかった。
スカイ達はトンネルと国境越えの、どちらかを選んで国境越えを気が向いて選んだからだった。
正直は最良の策とは良く言った物だった。
「それでは目的地を教えて下さい」
係官が言った。
「半日町」
スカイは正直に答えた。正確にはアッパカパー要塞だったが。半日町を通らなければアッパカパー要塞に辿り着けないから、これも間違いではなかった。
マグギャランが、もうダメだ!という顔をして両腕で顔を隠していた。
「通行税は一人頭一万二千ニゼ(六千円)です」
灰色の制服を着たイシサ聖王国の国境の兵士が帽子の下から上目使いでスカイ達を見ていた。
「それじゃ、払うぞ」
スカイはマグギャランとコロンに言った。
2人とも強ばった顔で頷いた。
スカイは、安物の財布から四千ニゼ金貨を三枚取り出した。
マグギャランはゴロジのブランド・マークが沢山付いている財布から一万ニゼ金貨と一千ニゼ銀貨を二枚取りだした。
コロンは赤い財布から一万ニゼ金貨と一千ニゼ銀貨を二枚取りだした。
スカイ達は、パスポートにスタンプを押して貰った。
「W&M事務所が、堂々と、国境の「霧の谷鉄橋」を越えて、我等がアッパカパー伯爵領に侵入してきました」
ベシアが白い携帯で報告を受けて言った。
「予想を越えた図々しさだな。我々が冒険屋に注意を払う事ぐらいは予測は出来るだろう」
アッパカパー伯爵は怒りを抑えながら言った。
「これは憂慮するべき事態でしょうか。実に、ふてぶてしい輩です。報告によると、ちゃんと国境の通行税はニゼ建てで一万二千ニゼ(6千円)を一人ずつ払ったようです」
ベシアが言った。
「だが、奴等は何も知らないだけだ。「霧の谷鉄橋」からアッパカパー要塞に向かうアッパカパー峠の山道に我々は、鉄壁の防御陣を敷いていることを。ボンドネード・ファミリー、灼熱の翼、W&M事務所はアッパカパー要塞に辿り着くことは出来ない」
アッパカパー伯爵は言った。
「妙だな。騒動は起きていないようだな」
リート・ボンドネードは、霧の谷鉄橋が在るはずの霧で視界が閉ざされた先を見ていた。
「そうね。私達が、アッパカパー要塞に密告したから。当然、国境の霧の谷鉄橋には厳重な警備体制が敷かれているはずよ」
コーネリーが言った。
本来ならばコーネリーの言うとおり、リート・ボンドネードの密告で霧の谷鉄橋のアッパカパー伯爵領側では厳重な警備体制が敷かれているはずだった。W&M事務所が国境に差し掛かれば何らかの騒動が起きるはずだった。
「どうやら、途中のアッパカパー峠で待ち伏せが在ることを考えた方が良いな」
リート・ボンドネードは言った。
これは予想できることであった。
「そういう事になるわね」
コーネリーが言った。
「我々はリッキーンの影の鳥で影になって通り抜ける。リッキーン。我々を影にしろ」
リート・ボンドネードは言った。
「判りました」
リッキーンが前に出てきた。そして集中を開始した。リッキーンは影の鳥という精霊を使ったのだ。
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道