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情熱のアッパカパー要塞

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 「かち合ったな」
ローサルは言った。
 「トンネル・ルートで、一番安全に地下ダンジョンを突破できるルートは、この四十二番坑道だ」
 カーマインが言った。
 「だよな。それじゃ、同じルートを通る訳にはいかねぇな」
 「当然だ」
 「どうする」
 「どちらかが別のルートを通る事になる」
 「それじゃ、コイントスで決めるぜ」
ローサルは金貨を取り出した。今では使われていない、絶望と頸木の王の肖像が刻印された。昔のコモン金貨だった。ローサルはコイントスをする時には、何時も、この金貨を使っていた。
 「仕方ない受諾をしよう」
 カーマインは言った。
 「表と裏を選ばせてやる。表は、この肖像。
裏は、この金貨の価値を表す数字だ」
 「表を選ぶ」
「何だよ、俺も表を選ぶつもりだったんだぜ」
 ローサルは言った。
 エターナルのジジイが前に出てきた。
 「姫様。いけませんぞ。それは悪趣味にも、絶望と頸木の王が鋳造したコモン金貨です。その肖像画の主は、コモン全土を制圧して人道にもとる施政を引いた絶望と頸木の王その人です。仮にも姫様は、カーマイン大公国の世継ぎとならねばならない御身。人の上に立つ以上このような場所で、このような輩相手とは言え絶望と頸木の王を選んではなりません」
 エターナルのジジイが言った。
 「判った。訂正する。私は裏を選ぶ」
 カーマインは真っ直ぐローサルを見ながら言った。
 「よし、それじゃコインを投げるぜ。ほらよっ!」
 ローサルは右手の親指でコインを弾いた。
 そして、落ちてきた金貨を左手の甲と右手の手の平で押さえつけた。
 ローサルは右手を退けた。
コモン金貨は絶望と頸木の王の肖像が上を向いていた。
 「俺の勝ちだ」
ローサルは言った。
 「私の負けだ」
 カーマインは言った。
 「それじゃ、俺達は四十二番坑道を通るぜ」
 ローサルは言った。
 「貴様。何故。そのような絶望と頸木の王が作った金貨を持っている」
 エターナルのジジイがローサルを睨み付けながら言った。
 「俺が絶望と頸木の王になるからさ」
 ローサルは笑いながら言った。
 カーマイン団のメンバーの顔が強ばった。
殺気のような圧力がカーマイン団の方からローサル達に向かって吹き付けてきた。
 パンと音がした。
 ソフーズの風船ガムが割れた音だった。
「悪い」
 ソフーズが吹き出して言った。
 「冗談だぜ。さあ、お前等行くぞ」
 ローサルはカーマイン団達に向かって笑いながら仲間達に手を振った。
 そしてローサル達は四十二番坑道ではなく四十一番坑道を目指してトンネルの中へと入っていった。
 
 

「わたしは、ポウイトY。道を、お尋ねするが。ここはアッパカパー峠か」
 オレンジ色のラバに乗った坊主頭の三十代中頃の男がリート・ボンドネード達の後からやって来た。
「何だ、お前は」
 リート・ボンドネードは言った。
 「私は旅の抒情詩人ポウイトY、親しい人はポエマーYと呼んでいる」
「あっちへ行け。我々は仕事中だ」
 リート・ボンドネードは言った。
「うむ、ポエムが思い浮かんだ。ザス・ドス・ハスで、年老いた冒険屋に道を尋ねると私はいつの間にかアッパカパー峠を越えてしまったようだ。私はラバのロシュナンテに声を掛けたフーフ、フーフ」
ポウイトYは、そう言うと霧の谷鉄橋に向かって、だく足のラバに乗って駆けていった。
 「あれは何?」
コーネリーがリート・ボンドネードに言った。
 「判らん。だが、どうしょうも無い馬鹿者で在ることは間違いは無さそうだな」
 リート・ボンドネードは言った。



スカイ達は、ミドルン王国の国境とイシサ聖王国の国境線上に位置する「霧の谷鉄橋」を目指して山道を歩いていった。ミドルン王国が直接管理する関所とイシサ聖王国のアッパカパー伯爵領が霧の谷に架けられた鉄橋を挟んで向かい合っている事になっているらしかった。
 ミドルン王国の緑の上着に白いズボンの軍服を着た2人の兵士が「霧の谷鉄橋」のあるミドルン王国とイジア国の国境を守っていた。
スカイ達は惰性で、そのまま、霧の谷鉄橋を目指してパスポートを見せて歩いていった。
イジア国はミドルン王国の一部でも在るから、原則的に通行税はパレッアー山脈の関所と同じように非課税だった。
 「どうする。スカイ。俺達はパスポートは持っていることは持っている。このまま知らん顔して、イシサ聖王国に入るか?」
 マグギャランがミドルン王国の赤いパスポートを取りだして言った。ミドルン王家の紋章火食い鳥が描いてある。
 「確かに、それも手だよな」
スカイは言った。
 「だが、常識で考えてみたら、冒険屋を小イジアの救出に雇う可能性ぐらいは、誰でも考えつくだろう」
 マグギャランは言った。
 「ああ、そうだよな」
 スカイは頷いた。
「不味いな」
 マグギャランは言った。
 「ああ、確かに不味いな」
 スカイは言った。
だがスカイ達は、不味いことを互いに確認し合いながら、どんどんと霧の谷鉄橋へ向かって惰性に任せて歩いていった。



 「問題は無かったな。これだけ、霧が深ければ、ペロピンが発見される心配も無い」
 ソークスは、一番最後のリッカを乗せたペロピンが到着するのを見ながら言った。
「まあな」
 マウドが頷いた。
 「えへ、何て、優秀なの、この子は。どう?スゴイでしょ」
 リッカはペロピンを撫でてソークス達の方を見て自慢した。
「どうやら俺達が一番最初に小イジアを発見できそうだな」
 マウドが言った。
「何よ、マウド。私の言うこと無視しないでよ」
 リッカが言った。
 「確かに、そうだ。他のパーティには悪いがペロピンを使った分、俺達が小イジアを連れて帰る頃に、他のパーティがアッパカパー要塞に到達するという事になるかな」
ルージェイが言った。
「あっ、ルージェイも無視している」
 リッカが言った。
 「これは、競合ルールだ。俺達は俺達で最善を、つくす必要がある。リッカ、昨日の夜の偵察で発見した、アッパカパー要塞へ通じる通路を案内しろ。お前にしか出来ない事だ」
ソークスはフォローしながら言った。
 「うん、判った」
 リッカは機嫌を直してラップトップの三次元モニターを開いてアッパカパー要塞の立体地図を浮かび上がらせた。



「我々はリッキーンの精霊、「影の鳥」で影になって国境を突破する。リッキーン「霧の谷鉄橋」が見えたら、「影の鳥」で我々を影にしろ」
リート・ボンドネードは言った。
「判りました」
精霊使いであるリッキーンが頷いた。 
 これがボンドネード・ファミリーの作戦だった。検問所などは全て、リッキーンの「影の鳥」で通過するのだ。



ソークス達はリッカが使った「鋼鉄の歯車」学派の魔術、光学迷彩で透明になった。そして、そのまま、アッパカパー要塞の中に忍び込んだ。現在はアッパカバー要塞の北側の使われて居ない部屋に鍵を開けて入って休憩を、とっていた。リッカはノアムと違って、あまり長時間光学迷彩の魔術を維持できないからだ。ルージェイが扉に耳を当てて、聞き耳を立てていた。