情熱のアッパカパー要塞
「それなら、なぜフラクター選帝国は出来た?エターナルから分裂したんだぞ。お前等の大局など、ちんけな安っぽいモノだ。フラクター魔術師領は家電を作れたが、お前達は分派の筈のフラクターの様に家電を作ることは出来なかった」
シャールは言った。
「家電など、エターナルの分派が作った玩具に過ぎない。エターナルの正統な後継者は我々だ」
エターナルのジジイは言った。
「ナバーガー黙れ。口を利くな」
大剣を背負った全身鎧のジジイが言った。
エターナルのジジイは黙った。そして沈黙が訪れた。
スカイ達は霧の谷沿いに山道を歩いていった。
「俺は、良いアイデアを実は隠し持っていたのだ」
マグギャランは腕を組んで、もったいぶった声で言った。
「何だよ早く言えよ」
スカイは言った。
それは昨日から奴が言っていた事だった。
勿体ぶっていて、なかなか言わないのだ。
「コロンのパラボラ・ジャンプの呪文を使うのだ。そして、この霧の谷を挟んだイシサ聖王国の向こう側と近い場所をパラボラ・ジャンプで飛んでいく。それだけではない。あらゆる難所をパラボラ・ジャンプで飛んでいって素早く、仕事を済ませて小イジアを発見して一緒にパラボラ・ジャンプで帰ってくるのだ。名付けて全部パラボラ・ジャンプ作戦だ。どうだ、すごい名案だろう」
マグギャランは自慢げな顔で腰に手を当てて言った。
「確かにコロン姉ちゃんのパラボラ・ジャンプは、かなり高く飛べるからな」
スカイは納得した。
「そうだろう。霧の谷は近いところでは百メートルは無いから簡単にパラボラ・ジャンプで飛んでいける。さあ、コロン、俺達を飛ばして向こう側へ渡すのだ。そして、お前も、自分の頭を叩いて飛んでこい」
マグギャランは言った。
コロンは首を傾げてから呪文書を調べ始めた。そして顔が青ざめていった。
「…無くなっている」
コロンは絞り出すように言った。
「何?パラボラ・ジャンプの呪文が無いのか」
マグギャランの顔も青ざめた。
「…書いたはずなのに無くなっている」
コロンは、かすれた声で言った。
「どこかページを間違えているんじゃねぇのかよ」
スカイは言った。コロンの呪文書は、ぷ厚いから見失っている可能性は十分に在った。
「…確かに、ここに書いたはず」
コロンは慎重にページをめくりながら言った。
「コロン、根性で思い出せ。お前のパラボラ・ジャンプの呪文は獄門惨厳塔の頂上のダンジョニアン城にまで到達出来る百メートルぐらいは余裕で飛べる呪文だ。パラボラ・ジャンプさえ使えれば、今回の仕事は無茶苦茶容易く出来るぞ。俺は、アッパカパー要塞に潜入する方法として、お前のパラボラ・ジャンプに賭けていたんだ」
マグギャランは言った。
「…無い」
コロンは他のページをめくって捜していた。
「どうしたコロン。思い出せ。根性で思い出すんだ」
マグギャランは言った。
「…忘れた」
コロンは言った。
どうやら、また、いつものように行き当たりばったりになることは間違いなかった。
まあ、俺達って何時もこうだからな。
スカイは思った。
「また作り出せ。お前は普通の魔術師と違って、魔術を研究したり学習する時間無しで呪文が作れるのだろう」
マグギャランは言った。
「…うん」
コロンは頷いて。
呪文書に万年筆で魔術の数式を書いていた。
「…出来た」
コロンは少しの時間、数式を書いていると呪文を作った。
「よし、飛ばしてみろ」
マグギャランは自分の背中を指して中腰になってコロンに言った。
「…でも、前と同じ様にはいかないかも」
コロンは首を傾げて言った。
「何かで実験する必要が在るという事かよ」
スカイは言った。
「…うん」
「それじゃ、コロン、実験をしてみろ」
マグギャランは言った。
「…この石で」
コロンは転がっている小石を杖で叩いた。 小石が下から火を吹いて浮かび上がって霧の谷の方へ飛んでいった。そして5メートルぐらい飛ぶと急に失速して霧の谷の底へと落ちていった。
「こりゃ、不味いな」
スカイは狼狽して言った。
「確かに実験して正解だったな。パラボラ・ジャンプのはずなのに放物線の途中で失速するようでは到底パラボラ・ジャンプとは呼べないな。危うく俺は谷底へ落ちるところだった」
マグギャランも強ばった顔で言った。
「ペロピン、変形」
リッカが、左手首に付けたペロピンのコントローラに言った。
ペロピンは飛行形態に変形して一メートルぐらいの高さを浮いた。
「ペロピンが在る以上、俺達は他の四つのパーティより先にアッパカパー要塞に到達する事が出来るな」
マウドは言った。
「まあ、一度に一人しか運べない欠点は在るが、十分な能力だ」
ソークスは言った。
「あのう、私も乗るのですか?飛んでいる間に私だけ落ちたりしませんか。霧の谷は底が見えないぐらいに深いそうでは無いですか」
ルエラが泣きそうな顔で言った。
「地図を見る限り、霧の谷の深さは百五十八メートルだ。確かに落ちたら助からない高さだな」
ルージェイが地図を見ながら言った。
「私、高所恐怖症なんですよ」
ルエラが青ざめた顔で言った。
「ルエラを怖がらせてどうするルージェイ」
ソークスは言った。
「ふーん、それじゃ、まずはルエラから乗ってみる?」
リッカが言った。
「えっ、私から?!」
ルエラが悲鳴のような声を上げた。
「私とペロピンに任せなさいよ。ちゃんと操縦するから」
リッカは言った。
「ハイ、ソウデス。ワタシニ、マカセテクダサイ。オトスヨウナ、コトハ、アリマセン」
ペロピンは飛行形態のまま言った。
「俺が先に乗っていく。そして橋頭堡を築く」
ソークスは槍を担いでペロピンに手を掛けて言った。ペロピンにはリッカの兄のノアムの操縦で何度も乗っているから問題は無かった。
「トンネルの扉は開いているようだな」
ローサルは言った。
地下の階段を降りた底の一号坑道へ繋がる鉄の扉は開いていた。そして、両脇をイジア国の軍服を着た兵士達が2人居て守っていた。
ローサル達とカーマイン団が降りてくると。ブーツの踵を打ちあわせて敬礼をした。
「おい、ケツ女。お前等は、どの坑道から潜入するつもりだ」
ローサルは言った。
カーマインが振り向いた。
「どういう腹づもりだ。仕事は別々にやっていく事になっているだろう。貴様等とは協力はせん」
カーマインが言った。
「違うぜ。俺達が、同じ、坑道を選択していた場合。かち合うだろう。だから、選択した坑道を、ここで言い合って。もし、同じ坑道を選択していたら。どっちかのパーティが譲ると言うわけだ」
「成る程。姫様。この下郎達の提案は考慮に値します」
背中に大剣を担いだジジイが言った。
「そういうことだぜ。俺達は四十二番坑道を選択した」
ローサルは言った。
カーマインが後のジジイ達と顔を見合わせた。
「それでは我々も答える。我々も、四十二番坑道を選択した」
カーマインが言った。
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道