情熱のアッパカパー要塞
「仮に国境を越えられた場合、どうなる。アッパカパー要塞に潜入できるのか?」
ローサルが言った。
「このイシサ観光ガイドの写真を見て見ろ。アッパカパー要塞の城下町「半日町」はアッパカパー要塞が建てられている岸壁がオーバーハングしている場所の下に建てられている、
観光ガイドによれば、日が射す時間が半日しか無いから「半日町」と呼ばれている。ここからアッパカパー要塞に侵入することは非常に難しいだろう。内通者でも居れば話は別だがな。ソフーズが調べた話では、マフィアがアッパカパー要塞の城下町「半日町」には無いらしい。この線では買収工作も上手くは行かないだろう」
シャールは言った。
「お堅い場所らしいぜアッパカパー伯爵様の領地はよ。普通は、どんな町にもギャングやマフィアの組織は在るのによ。まあ、こんな辺境で金になるような話も無ければマフィアも寄りつかないって事だがな。だがイジア国には地回りのマフィア組織が在るらしいがよ。首領はロード・イジアだとよ」
ソフーズは風船ガムを膨らませながら吹き出して言った。
「決めたぜ」
ローサルは覚悟を決めて言った。
「どうするんだ」
シャールは言った。
「第三十八番トンネルからアッパカパー要塞の地下迷宮へ潜入する。そしてロード・イジアの息子を捜す」
ローサルは言った。
だが、何か嫌な感じがした。何かに見られているような嫌な感じだ。
ソフーズとターイも気が付いたようだった。
ローサルは第四十一番トンネルを指さした。
シャールが口を開こうとしたが。
ソフーズが腹をこづいて頷いた。
シャールも何かを気が付いて黙った。
そう何かが居るのだ。部屋の中に。
マグギャランと別れてソークスは自分の部屋へと向かって槍を背負って歩いていった。
マウドが要塞の空中庭園の端で待っていた。
「どうだった。あの若いのは。お前が教えたかいはあったか?」
マウドは言った。
「判らないな。腕は悪いが、才能が無いとも思えない。奇妙な男だ。バランスが悪いタイプだな。小手先の技に走るタイプだ」
ソークスは言った。
「お前が才能が在るというのなら在るんだろう」
マウドは言った。
だがソークスは確信が持てなかった。
マグギャランという男に才能が在るのか無いのか判らなかった。ソークスが、ここまで成長出来るか読めない武芸者も珍しかった。
「ノアムの方はどうだった」
ソークスは言った。
「携帯で話をしたら。ノアムはペロピンを使って、空を飛ばして今夜中にアッパカパー要塞の偵察をしろと言った」
マウドは言った。
「ボンドネードと結んだ協定の話はしたのか?」
ソークスは言った。
「ああ。ノアムの話ではペロピンは、ただの物だからパーティのメンバーには加わっていないから協定違反では無いという屁理屈を、こねていた」
マウドが言った。
「相変わらず腹黒い奴だ」
ソークスは苦笑した。ノアムとミルンがパーティを離れて一抹の寂しさだけが残った。
「それじゃペロピンを飛ばすぞ」
マウドもつられて苦笑いをした。
「そうか、リッカはどうした」
ソークスは言った。
「リッカは、ルエラの話では、もう眠っているそうだ。リッカは早寝早起きで寝付きは良い。ルエラは睡眠薬が必要なぐらいに寝付きが悪いからな。錬金術士の医薬品会社デタトン社が作っている睡眠薬が、お気に入りらしいが、最近デタトン社は事故が起きたからな。端末にも巨大ゾウリムシの駆除依頼が載っかっていた」
マウドは言った。
「起こせ。ペロピンはリッカの命令しか聞かないんだ。それにラップトップの使い方を知っているのは「鋼鉄の歯車学派」のリッカだけだ」
ソークスは言った。
カーマイン団はジェラールの部屋に集まって作戦を練っていた。だが、難航している事は間違いなかった。アッパカパー要塞は外見から見る限り。非常に堅牢な作りの要塞で外からの潜入は難しかった。
「我々には、アッパカパー要塞に外から侵入するだけの兵力は在りません。仮に潜入出来たとしても警備の目を潜り抜けてロード・イジアの息子の居場所を探ることは困難です」
ナバーガーが言った。
「確かに、ロード・イジア要塞から見えるアッパカパー要塞は堅牢な作りです姫」
ジェラールが言った。
「私達は結局、トンネルからダンジョンに潜入するしか方法は残されていないようですね」
ミラーナ・カーマインは言った。
「我々が土の穴の中を通って行くとは屈辱的ですが他に方法が在りません」
ジェラールが言った。
「カーマイン家を再興するためです。このぐらいの恥辱は呑みましょう」
ミラーナ・カーマインは言った。
「第、四十二番トンネルから潜入した方が良いでしょう。ダンジョンの次のフロアーへの階段が百メートル前後の移動距離であります」
ナバーガーが言った。
「何かに見られているような気配を感じます」
ジェラールが言った。
「確かに、そうです。レストランの前の時とは異質な感覚です姫様」
ラーンが言った。
「やはり、何かが居ますね。姿を見せなさい」
ミラーナ・カーマインは言った。
だが、部屋の隅からは何も声が帰ってこなかった。
「はい、これが、今、ペロピンから送られてきている画像よ。あー眠たい」
二つに分けた髪を解いて、金髪を適当に銀色の星が付いた愛用のナイトキャップの中に入れているリッカがピンクのパジャマ姿のままラップトップの立体モニターに映像を映したまま大欠伸をしてペロピンを操っていた。
「なるほど、これがアッパカパー要塞か」
マウドが言った。
「上から見た感じでは、こんな感じ。更にペロピンが収集したレーザーセンサーによる地形データを三次元化して処理すると、こんな感じになるのよ」
リッカが、ラップトップを操作すると、立体モニターにホログラフ映像で立体的なアッパカパー要塞と「半日町」の画像が浮かび上がった。
「その前に、邪魔な物が部屋の中に居る」
ソークスが言った。
「ああっ、ゴソゴソする奴だな」
マウドは言った。
「どうしたのですか。まさかゴキブリでは?わたしゴキブリだけは生理的に耐えられないんですよ。今、思いだしただけで吐きそうなんですよ」
パジャマ姿のルエラが口を押さえながら泣きそうな顔で辺りを見回して言った。
「まあ、近いような物だな」
ソークスは言った。
「うむ、確か何か居る、ボンドネードは精霊使いの血を引くらしいからな。こりゃ協定違反かな。お互いに仕事を奪い合う関係だからな仲良くはいかないものだろう」
マウドは言った。
ルージェイが前に出てきた。
「俺がやる。銑錬銀で出来た、このナイフは精霊使いの精霊を仕留められる。同時に精霊使いもだ」
ルージェイは言った。
「明日、ボンドネード・ファミリーから一人消えている事になるかな。だが精霊使いを相手にする以上仕方が無いな。先に手を出してきたのは向こうの方だ。やれルージェイ」
ソークスは命令した。
ルージェイは頷いた。
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道