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情熱のアッパカパー要塞

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 「あのミリシンという地代地主出身の官僚は、明らかに、ミドルン王国に議会を作ろうとしている勢力の代弁者です」
ナバーガーが言った。
 「何を言っているのかね。それにミリシンは大した仕事はしていないぞ。ただ中央と連絡を取っているだけだ。そして、たまに胃炎に苦しんで倒れている」
 ロード・イジアは言った。
 「ぷっ!まさか、ミリシンの様な弱輩がスパイであると言うのであるか」
 マッタール大臣が突然、吹き出しながら言った。
「その通りです」
 ミラーナは何か言いそうだったナバーガーを手で制して言った。
ナバーガーの言い回しはロード・イジア達には向かない。
 「ハハハハハハハハ、ミリシンに限って、そんなことは無い」
ロード・イジアはマッタール大臣の顔を見て笑い声を上げながら言った。
 「ハハハハハハハハ、ミリシンは根性無しなのである」
 マッタール大臣もロードイジアの顔を見て、つられて笑い出した。
ミラーナは笑っている二人を見ながら、つのる苛立ちを押さえていた。鋸卿がカーマイン大公国を支配するまで、ミラーナの父や兄達も皆、今のロード・イジアやマッタール大臣のように議会や革命に対して、何も気に留めていなかったからである。だが、変化は急に訪れたのだった。そして激動の中をミラーナ達は過ごしてきていた。



月が出ていた。やけに大きく見える月だった。それが吉兆なのか、凶兆なのかはソークスにとって不明だった。
マグギャランというユニコーン流の同門の男が手合わせを願ったから、ロード・イジア要塞の空中庭園で稽古を付ける事にしたのだ。
ロード・イジア要塞の空中庭園には花が植えられていて、花の香りがしていた。
 「それでは、ユニコーン流の同門として稽古を付けてやる」
 ソークスは言った。
 「感謝します」
マグギャランは言った。
 ソークスはマグギャランと向かい合った。
 マグギャランは剣を抜いて刃に手を沿わせる攻防一体の「嘶きの構え」を取った。
 間違いなくユニコーン流を切り紙以上まで修めている証拠だった。
 ソークスはミドルン王家から授けられた自慢の愛槍「鎧通し」を「三本足」の構えで構えた。この構えの意味は、4分の3の体重を後ろ足である右足に掛けるという意味があった。実際には4対6か3対7で掛けるが、それは口伝であった。剣より槍の方が長い分、懐を深く取れるのであった。
 マグギャランはユニコーン流のスピンドル・スラスト(紡錘回転突き)を「嘶きの構え」から両手で持った「衝角の構え」に変えて放った。剣で槍と戦うときの定石のケラ首落としを狙った攻撃だった。
 このスピンドル・スラストは「一角獣の角」と呼ばれる回転突きで、ユニコーン流の基本中の基本の、槍術でも剣術でも使える理合いを持った突きであった。
 ソークスは「三本足の構え」からスピンドル・スラストを掛けた。
 ソークスにとって槍は真っ直ぐ打ち込むだけで良かった。だが手加減をして剣を折らない程度で打ち込んだ。
 マグギャランの剣が跳ね上げられて。マグギャランの手から跳ね飛んだ。
 そしてマグギャランの喉元に寸止めで槍の穂先を止めた。
 「これがコモンを制覇した俺の槍だ」
 ソークスは言った。
「何故、同じ流派で、同じぐらいの体格で、こうも実力に差が出るんだ。武器の違いなのか?」
 マグギャランは完全に狼狽していた。
「お前は、基本のスピンドル・スラストが出来ていない。ユニコーン流の全ての技は、スピンドル・スラストから生まれているのだ」
ソークスは門下生に教えるように言った。
「それは俺の師匠から聞いたことと全く同じだ。だが、俺はスピンドル・スラストは完全に身につけたはずだ」
マグギャランは言った。
 「なまじ、出来るからと言って得手や巧手に手を馴染ませるから基本のスピンドル・スラストが出来ていないのだ」
 ソークスは言った。このマグギャランという男は、技を幾つも使えるが、どれも中途半端な技を使うタイプで在ることは間違いは無かった。
「スピンドル・スラストは全身で打ち込むように俺は師範から教わった。そして実際に全身で打っている」
マグギャランは言った。
 「それは間違いではない。だが、お前は全身を使って打ち込んではいない。肩までしか使えていない。いや、肩も正確には使えては居ない。つまり小手先の技でしかない」
ソークスは、はっきりと言った。甘いことを言うつもりは無かった。
「俺のユニコーン流は全然駄目なのか」
マグギャランは言った。
 「お前は剣士としては弱い方には入らない。だが伸び悩んでいるようだな。俺が稽古を付けてやる。剣を拾え」
 ソークスは言った。
結局、理屈をこねても判らなくなるだけだから。ソークスは手合わせを、する事を選んだ。ソークスは、口達者ではなかった。
マグギャランは剣を拾った。
 「スピンドル・スラストは応用は幾らでもきく。引くときに反対方向に掛けるリバース・スラストは相手の攻撃を受け流して無力化する事もできる…」
ソークスは槍を振るって説明を始めた。



キャンディ・ボーイズはリーダーのローサルの部屋に集まって作戦を練り続けていた。
「いやあ、参ったな。こんな厄介な話になるとはよ」
 ローサルは言った。
 四人で集まって地図を見て作戦を考えていた。
 「ロード・イジアの先祖達が作ったトンネルは数えたところ間違いなく合計で42本ある。途中までは同じ道を重複するトンネルも幾つもある」
 シャールが言った。
「だが、そのうち、アッパカパー伯爵側に発見されて塞がれているトンネルが38本で実質的には4本しか使えるトンネルは無い。このトンネル達も、発見されていないという保証はないだろうな」
ローサルは言った。
 「ご苦労なこったな。穴掘って、トンネルを造って国境侵犯なんてよ」
ソフーズはガムを膨らませながら言った。
「ダンジョン越えは止めておくか?」
 ローサルは皆に言った。
シャールが苛立たしそうに眼鏡を外して拭きながらローサルに言った。
 「確かに、別の方法が在るなら。そうしたら良い。だが、ダンジョンに入る前にアッパカパー要塞の全体像を、もっと詳しく知ることは出来ないのか?この大雑把な地図しか用意されていない現状では問題が在りすぎる。ロード・イジア要塞から霧の谷を挟んで見えるアッパカパー要塞は、岩盤を、くり抜いて作っているため攻め入りづらい事は間違いない。イジア国を北方に向かって領土から出た場所にはミドルン王国とイシサ聖王国が架けた、霧の谷沿いに国境を跨ぐ鉄橋があるが、この鉄橋を越えるのは難しいな。ミドルン側はミドルン王国が直接管理しているが、イシサ聖王国側はアッパカパー伯爵が管理している」
シャールは「イシサ観光ガイド、アッパカパー伯爵領編」の鉄橋の写真を皆に見せながら言った。濃い霧で覆われていてハッキリと全体像が写っていなかった。
 「ああ、確かに通るのは難しいな。俺達が冒険屋であることは、なりを見たら一発で判るからな。シャールの魔術師の杖は長いから変装しようにも隠しようが無い」
 ソフーズが言った。