情熱のアッパカパー要塞
備考欄にミドルン王国のウダル文字の免許証らしい物が映し出されていた。アッパカパー伯爵領ではイシサ聖王国の公用語に使われるレンテ文字が使われていた。トレーダー語で医師であることが書かれていた。
「続いて、イオラ・ボンドネードは17歳の少女です。弓兵だと書かれています「スコービオン射貫流」弓術の免許皆伝だそうです」
「十代の子供だと。バカにしているのか」
アッパカパー伯爵は年齢を聞いて憤慨して言った。
プロジェクターに金髪のポニーテールの少女の顔が映し出された。睨んでいるような顔つきをしているが、整った顔立ちだった。
「いえ、もう一人十代の子供が含まれていますリッキーン・ボンドネードと言う17歳の少年の精霊使いです」
プロジェクターに黒い巻き毛の神経質そうな顔立ちの少年が映し出された。
「精霊使い?あの目に見えない怪物を使うという連中か?本当に実在するのか」
アッパカパー伯爵は言った。
「ええ、これが本当だとすると、恐ろしい話です。精霊使いは人間では極めて珍しいそうですから。噂では暗殺者の中には目に見えない精霊を使って事故や病気に見せかけて暗殺を謀る連中も居るらしいとか、恐い話です」
「ロード・イジアめ、姑息な真似をしおってからに。精霊使いなどが居ては枕を高くして眠ることなど出来んではないか。もしかしたら、ボンドネード・ファミリーは、このアッパカパーの寝首をかこうとしているのではないか。ええい、忌々しい」
アッパカパー伯爵は言った。
「以上の5名が、我等のアッパカパー要塞に、やって来るボンドネード・ファミリーのメンバーです」
「なるほど。実に卑劣で在るな。しかし、十代の子供を二人も入れているのは、まるで、このアッパカパー要塞が、子供の就業トレーニングの場ぐらいにしか思っていない事の顕れではないか」
「ええ、そうです。実に失礼です」
「次は、どんな奴等だ」
「キャンディー・ボーイズです」
「えらく人を食った名前の連中だな」
「ええ、ですが、最近実力を伸ばしている、ミドルン王国の若手で最有力なパーティだと書かれています」
「続けろ」
アッパカパー伯爵は言った。
プロジェクターが履歴書を写しだした。
「リーダーのローサルは、評判の良くない男です。嘘つき、大言壮語、大酒のみで喧嘩っ早くて、女癖が悪いなど色々と悪評を纏っている男らしいです。年齢は二十三歳の戦士です」
「典型的なゴロツキだな。冒険屋の職業イメージ、そのままの男ではないか」
「ですが。難易度の高い依頼を集中的に達成しています。仕事の成功率は七十三%です。ミドルン王国の冒険屋の中では一番の成長株らしいそうです」
「で、そのゴロツキの仲間はどうなっているのだ」
「仲間の魔術師のシャール・ジャーハは二十五歳の男です。「雷光の裁定」学派という聞き慣れない魔術師の学派です。ミドルン王国とヒマージ王国では比較的ポピュラーだそうですがミドルンでもヒマージでも歴史的な経緯から政府によって弾圧されている学派です。「雷光の裁定」学派は電光系と呼ばれる雷のような魔術を得意としているそうです。ここに書いてある説明ではエターナルの電光系の呪文より威力が格段に高いそうです」
履歴書が映し出された。顔写真は金髪の巻き毛を総髪にして背中まで垂らして銀縁の眼鏡をかけている。
「エターナルの魔術は最先端を行く最強の魔術ではないのか」
「さあ、詳しいことは判りません。私は魔術の専門家では在りませんので」
「次はどうなっている」
「ターイ・ラッスルはミドルン王国の医師です。二十歳の男で飛び級をして医師免許を習得したそうです。ですが色々と問題が在るそうです」
「ならず者の寄せ集めの様な連中だな」
「ええ。私も、そう思います。次のソフーズは二十三歳の男です。履歴書では剣士と名乗っていますが漆黒の外套が調べたところ正体は盗賊で裏社会と関係が在るそうです。クロウラー流速剣術と言う、細身の刃の付いていない刺突専門の剣を使った素早い連続突きを得意とする剣技を使うそうです」
「やはり、どうしようもない、ならず者だな」
「はい、そうです。それでは次に行きます。カーマイン団は仕事の成功率が七十一%のパーティです。仕事は貴族関係の仕事を引き受ける事で有名だそうです。カーマイン団のリーダー、ミラーナ・カーマインは議会に追放されたカーマイン大公家の嫡嬢だそうです。当年二十歳です」
履歴書が映し出されると、あたりに嘆息するような溜息が漏れた。
ミラーナ・カーマインは整い過ぎるぐらいの整った容姿の美しい妙齢の女性だった。
「有名な話ではあったな。カーマイン大公国が、鋸卿を代表とする議会に占拠された話は」
アッパカパー伯爵は言った。
「ですが、一応、鋸卿達はカーマイン大公国の大公を国家元首としています」
ベシアは言った。
「それでは、次に移ってくれ」
プロジェクターに白髪の髭と髪の年老いた鎧姿の男性が映し出された。
「ジェラール・ジェラルドはカーマイン大公国の元将軍。五十四歳の男です。特技はペガサス流剣術皆伝です」
「将軍が、冒険屋をするとは、因果な話では在るな」
「ええ、全くそうです。それでは次に行きます」
白髪を短く刈り込んで口の回りの髭も刈り込んだエターナルの紋章の付いた黒い外套の男性が映し出された。
「ナバーガー・ガーメントはカーマイン大公国の元家令です。エターナルを卒業した魔術師です。現在六十二歳の男性です」
「将軍や、家令が年老いてから冒険屋とは、ミドルン王国は、どうなっているのだ」
「やはり、我等のアッパカパー伯爵領と違い。上に立つ者に覚悟が足らないのでは無いのでしょうか」
「確かに、これは異常だ」
「それでは次に移ります」
白髪を七三分けに分けた眼鏡を掛けた男性が映し出された。
「ラヒア・タイナーはカーマイン大公国のカーマイン大公家の元典医です。五十三歳の男性です」
「五十歳を過ぎた医者が冒険屋とはな」
「ええ、酷い話です。それでは次に行きます」
黒い髪を短く切った整った顔の若い女性が映し出された。
「ラーン・オーフェルは経歴は不詳です。スカウト技能を持っている事と、マンティコア流二丁剣という剣技を使うそうです。現在二十五歳の女性です」
「なぜ、詳しい経歴が載っていないのだ。カーマイン大公家に仕えていたスカウトでは無いのか?」
「さあ、私にも判りかねます。漆黒の外套も詳しく書いていません」
「まあ、いい、それでは次に移ってくれ」
「判りました。次のパーティに移ります。灼熱の翼は、最近不調のパーティだそうです。前のメンバーが二人、寿退職して冒険屋を辞めて以降、86%在った仕事の成功率が57%にまで低下したそうです。このパーティはロボットを使うことで有名だそうです」
「ロボットだと?あのフラクターが使う金属の動く塊か」
「最近はエターナルも使うらしいですよ。このアッパカパー要塞の用心棒にもロボット使いが居ます」
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道