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情熱のアッパカパー要塞

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 集まっているのは、アッパカパー伯爵が騎士団長を務める「鉄牛騎士団」の副団長で要塞の守備隊長である聖騎士のドウン。それに加えてアッパカパー伯爵が雇った用心棒達の代表であった。傭兵団「戦斧隊」の第8戦斧中隊の中隊長の鬼人族ゴグ。怪物使いの「モンスター・サーカス」の団長ワールワルズ。ロボット使いのニワデル博士とスローター博士。傭兵団「屍(かばね)」の副団長、冬風であった。
「ミドルンのスパイの報告では信用は出来ませんな。我々を陥れる二重スパイかもしれません」
 アッパカパー伯爵家の家令ベシアが言った。
「嘘でも本当でも構わないでは無いですか。ウチの可愛いモンスター達が、冒険屋達をエサにしようと腹を空かせて待っていますよ」
 怪物使い「モンスター・サーカス」の団長ワールワルズが満面に笑顔を浮かべて言った。
ワールワルズはシルクハットに、赤と青のストライプのズボンを履いて白いタキシードの上着を着て、黒いマントを羽織っていた。そして髭を生やして片眼鏡を掛けていた。首に掛けた長いムチを、しごいて笑いを浮かべた。
「ゲシシシシシシ。団長ご満悦じゃん」
 ワールワルズの足下から人間の顔が付いた人面犬が下品な笑い声と共に言った。
ワールワルズは何時も、このブルドッグの胴体に髭の生えた人間の顔が付いた人語を話す怪物を連れていた。アッパカパー伯爵も、急遽集めることが出来た用心棒達が、このように些か問題が在る者達ばかりであることに後悔の念を禁じ得なかった。ワールワルズは生命を弄ぶ事を何とも思っていなかったのだ。「二重の螺旋」学派の秘術で作られた、怪物達やクローン人間を操っているのだ。
「戦斧隊は、どんな困難な戦いにでも立ち向かう。我々は諦めない。夢をありがとう」
第8戦斧中隊の隊長である二メートルの身長の鬼人族のゴグが巨大な五百?のダンベルを持ってリスト・カールをしていた。ゴグは巨大な椅子に座っていた。そして全身は異常に発達した筋肉で覆われていた。その筋肉には複雑な模様の入れ墨が全身に施されていた。
そして白い腰布を一枚巻いていた。
 戦斧隊はタビヲン王国に併合された混沌の大地から締め出された怪物達だった。
 「それでは会議を始める前に届いた資料の説明をします」
 ベシアが藤色に金細工を施した携帯を掛けながら言った。
アッパカパー要塞の作戦会議室に紙の束を持った兵士が入ってきた。そして家令のベシアに紙の束を渡した。
「アッパカパー伯爵様。我等が宿縁の怨敵、イジアが用意したゴロツキ共の詳細な報告が冒険屋組合で雇った冒険屋パーティ「漆黒の外套」からFAXで届きました」
 「読み上げてくれ」
 アッパカパー伯爵は言った。
「五つのパーティの内、四つのパーティが本命で、一つは数合わせのザコだと書いています。ザコの名前はW&M事務所です」
 ベシアが言った。
 「何故、ザコを雇う」
アッパカパー伯爵は怪訝に思って言った。
「ですが、ザコですが、仕事の達成率は、そこそこに良いようです」
 「まあ良い、ザコは後回しにして、本命の四つのパーティの説明をしてくれないか」
 アッパカパー伯爵は言った。
「何処から入手したのかは判りませんが冒険屋組合に登録されている履歴書のコピーも入って居ます。プロジェクターに入れて、スクリーンに映し出しましょうか」
 ベシアが言った。
 「そうしてくれ。時代は急速に変わる物だな」
 アッパカパー伯爵はフラクター選帝国から入ってくる科学技術には懐疑的ではあったが。エターナルの新しい農業や酪農の技術は領地の民衆のために大幅に取り入れていた。だが、懐疑的に思っているフラクターからの科学製品は便利ではあったから使わざるを得なかった。イジア国で採掘されたビビリウムで作られたフラクター選帝国の科学製品を使うことには、最初は、ためらいもあったが、今は使っていた。
 ベシアの合図でプロジェクターが出されて、スクリーンが降ろされた。そしてプロジェクターがスクリーンに、四十代程の茶色い髪を短く刈った男性の写真が付いた履歴書を映し出した。トレーダー語でリート・ボンドネードと書かれていた。
ベシアが咳払いをしてから読み上げ始めた。
 「まず、一番、危険なのが、ボンドネード・ファミリーだと書かれています。ボンドネード・ファミリーはミドルン王国では有名な、一族で冒険屋を営む連中です」
 「家族や親戚総出でか?」
 「はい、そうです。ですが、ボンドネード・ファミリーは引き受けた仕事の九十五%の成功率を誇る優秀な冒険屋の一族で、一族の長が、冒険屋の仕事に応じてパーティの編成を決めるそうで、今回は一族の中から五人が選ばれて参加するようです」
「偉く、傲慢な感じのする連中ではあるな」 「私も、そう思います。漆黒の外套からの報告では、メンバーのプロフィールも明らかになっています」
 「読み上げろ」
アッパカパー伯爵は言った。
 ベシアは咳払いをした。
 「まず、現在プロジェクターに映し出されているリーダーのリート・ボンドネードは45歳の男の戦士。数々の華々しい冒険を成功させてきた現在のボンドネード一家の長である長兄ルーサー・ボンドネードに比べると地味な三男ですが。冒険屋としての個人的な仕事の成功率は九八%と確実な仕事をするようです。趣味は釣りと書かれています」
 ベシアは読み上げた。
「その成功確率の高さが実に腹立たしいな。だが、我が、アッパカパー家の名誉にかけても小イジアの奪還は断固として阻止せねばならぬ、そやつの経歴にはアッパカパー家の名誉において泥を塗ってやらねばならぬ」
 アッパカパー伯爵は言った。
 「スキル欄は空白です。何かの剣術か武器術を修めているだろうと、書かれています。武器は剣と盾を使うことまでは判っています」
 「実に卑劣だな。自分の特技は隠して、表には出さないのか」
 「それが、ボンドネード・ファミリーというモノなのでしょうか」
「他のメンバーはどうなっている」
「魔術師のコーネリー・ボンドネードは43歳の女です。エターナル出身の魔術師だと書いてあります。FAXで届いた資料にはエターナル在学中の学生証のコピーが貼ってあります」
プロジェクターに四十代の金髪の女が映し出された。そして備考欄にエターナルの学生証のカラーコピーが貼り付けられていた。
 「エターナルの魔術師だと。エターナルの魔術師は王宮で大臣や官僚か、または大学で教授になったりするモノだろう」
 「ええ、女性で、あのエターナル出身の魔術師ですからね頭は良いんでしょう」
「気に入らんな。次はどうなんだ」
 「ケー・ボンドネードは22歳の男性で治療術士。コーネリーの息子だと書かれています。他にはデータは書いてありません」
 プロジェクターに茶色い髪の眼鏡を掛けた二十代の男が映し出された。こざっぱりと七三分けに分けている。
「治療術士だと?怪我人を治していれば良い物を。つまりは医者だろう」
「そうです。難関のミドルン王国の医師国家試験に合格しています。飛び級で十代で医師免許を取っているようです」