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情熱のアッパカパー要塞

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スカイはパセリが美味いポタージュスープを飲んだ後。丸いパンを取って置いてあるナイフで切って、銀製のコップの様な皿に入ったケチャップとマスタードを黒っぽいソーセージにかけてサラダと一緒に挟んでホットドッグを作って食べていた。食べてみるとニンニクと唐辛子が沢山詰まっている濃厚な味のソーセージだった。スカイは口の中が辛くなっていた。
「よお」
 スカイは横から声を掛けられた。
 ローサルが、肉の塊を持ってスカイの横にやって来た。
 「何だよ」
 スカイは言った。
「冒険屋は楽しいかよ」
ローサルが言った。
 「まあ、悪い仕事じゃねぇな」
スカイは言った。
「確かにそうだ。金が入る仕事だ」
 ローサルは言った。
「何の用だよ」
 スカイは言った。
 「何で貴族崩れと連んでいる」
 ローサルが言った。貴族崩れとは多分、マグギャランの事だろうと、スカイは思った。
 「他に組む奴が居なかったからだよ」
 スカイは言った。
「なるほどな」
 ローサルは言った。
しばし無言が続いた。
 「リート・ボンドネードには気を付けろよ」
ローサルは肉の塊を噛み千切って言った。そして噛みながら続けた。
 「ボンドネード・ファミリーのリート・ボンドネードは仕事の、やり方が汚い事で有名な奴だ。必ず何か仕掛けてくる筈だ」
 ローサルは言った。
 「何で、そんなことを教えるんだよ。競合ルールだろう。俺達は敵同士だ」
 スカイは言った。
 「お前達が簡単にボンドネード・ファミリーにハメられて脱落されても、俺達に面倒が回ってくるって事だ。粘ってボンドネードの奴等を困らせてくれた方が俺達、キャンディ・ボーイズの為になるんだよ」
 ローサルは言った。
「計算づくって事かよ」
 スカイは言った。
 「ああ、そうだ。これが競合ルールだよ」
 ローサルは言った。
 「俺は競合ルールが嫌いなんだよ」
スカイは言った。
 「俺も嫌いだ」
 ローサルは言った。
 スカイとローサルは無言のまま食い物を食べていた。
  


 「ロード・イジアが雇った冒険屋達が、ロード・イジア要塞に集結しました。この前に報告した五つのパーティと同じパーティです。ボンドネード・ファミリー。カーマイン団。キャンディ・ボーイズ。灼熱の翼。W&M事務所の五つのパーティです。彼等は協定を結んで、仕事の開始を明日の午前六時からと決定しました」
 ミリシンはイシサ聖王国のアッパカパー要塞に携帯電話で電話を掛けていた。
 ミリシンにとって、この問題は外交努力で解決するべき問題だった。そもそもの問題はロード・イジアの息子の小イジアが、一週間と三日前の、ある日突然居なくなって二日後の一週間と一日前に身代金と交換するという写真が送りつけられてきたのであった。ロード・イジアは顔を真っ赤にして怒り狂って大暴れをして、鎮静剤を医者から打たれた程だった。
 ミドルン王国とイシサ聖王国は必ずしも仲の良い国ではなかった。過去に何度も国境線を巡る戦争を繰り返してきていた。
 このミドルン王国に属するイジア国のロード・イジア要塞とイシサ聖王国に属するアッパカパー要塞の間には霧の谷という渓谷が存在しており自然国境説に基づく明確な形の国境線が在った。ミドルンの中央から派遣された部外者のミリシンの見る限り、この両者の対立は主に民族的な歴史的な物だった。
 だが、大きな問題が在った。フラクター選帝国から普及した科学という新しい魔術によって、情報化時代を迎えたことはミリシン達、官僚達からは酷く危険視されている社会的な変化だった。数年前までは、駅伝制による、早馬によっての情報の伝達が行われていたが今の時代は、フラクター選帝国が売っている携帯電話で簡単に情報が行き来する時代に変わってしまったのだ。新しい法律の制定も考えられていた。
 その科学のせいで、ロード・イジアの息子の小イジアの情けない写真が、そこら中に撒かれる事は間違いなかった。それをロード・イジアが看過する筈はなかった。さりとて、身代金の支払いに素直に応じるとも思えない。冒険屋を雇って奪還を図ることは、在る意味最初から予想できたことだった。ミリシンは気が付かなかったにしろ。
「ミリシン君ありがとう。私も、君の、お陰で、イジアのウスノロ間抜けが用意した、ならず者達を始末出来る。本当に金は要らないのかね」
 アッパカパー伯爵は言った。
 「わたしはミドルン王国の官僚ですからイシサ聖王国の貴族からは金は受け取れません。わたしはミドルンとイシサの平和の為に働いて居るのです」
 ミリシンは言った。
 確かに金は魅力的で欲しい物ではあったが、下手に外国から金を貰うと国家に対する背任罪に問われて死刑になる場合もあるからミリシンは拒絶していた。平和の為に働いているのに小遣い銭稼ぎのスパイと勘違いされているのが悲しかった。
「ところで、何故、小イジアはアッパカパー要塞に捕まったのですか。あなた達がロード・イジア要塞に忍び込んで小イジアを拉致したのでなければ何故、小イジアはアッパカパー要塞に捕まって居るのですか」
 ミリシンは、何度も尋ねた事を繰り返して聞いた。だが、肝心の部分は、はぐらかされていた。交渉にとっては酷く重要な核心部分なのに全然明らかになっていなかったのだ。
 「小イジアは我がアッパカパー伯爵家を愚弄したのだ。それでは、電話を切らせて貰う」
 アッパカパー伯爵は言った。
 「あ、待って下さい!」
 ミリシンは叫んだ。だが無情にも携帯は切れた。
 掛け直すか?
 ミリシンは躊躇した。
 だが、アッパカパー伯爵が理由を話すとは到底思えなかった。アッパカパー伯爵は、やはりイシサ聖王国の貴族であって、ミリシンはミドルン王国の一介の廷臣でしかないのだ。アッパカパー伯爵が話したくなければ、聞き出す権限は何処にも無かった。
胃が、また痛み出した。ミリシンは上着の内ポケットから胃薬「ピシャット」を取りだした。本当はデタトン製薬の胃薬「サワヤカーン」の方が効き目が良かったが。デタトン製薬はミュータント問題を起こしているからユーフ製薬が作っている「ピシャット」に変えたのだ。
ミリシンは、2.5?の錠剤を3粒取りだして首に掛けている「イジアの秘水」というイジアで湧き出ている湧水のペットボトルで飲んだ。これから、ミドルン王国の中央の外交府とイシサ聖王国に携帯電話で電話を掛けなければならなかった。更に胃が痛み出した。



アッパカパー伯爵は。携帯電話を切った。
そして、急遽設けられた作戦会議に、集まった用心棒達の代表を含むアッパカパー要塞の首脳達がアッパカパー伯爵を見ていた。アッパカパー伯爵は携帯電話を上着のポケットにしまうと話し始めた。
 「ミドルンのスパイからの報告が入った。
イジアが用意した5組の冒険屋のパーティがイジアの要塞に集結したそうだ。奴等が結んだ協定によれば仕事の開始時刻は明日の午前六時からだとスパイは言っている」
 アッパカパー伯爵は言った。そして円卓を睥睨した。