情熱のアッパカパー要塞
電球で照らされたトンネルの中は綺麗に掘られていて奧へと続いていた。地図に描いてあったトンネルの支道が見えた。地図に書いてある第2号坑道、第3号坑道、第4号坑道、第5坑道だった。
スカイは地図を見てみた。測量は正確にされているのか、きちんと図面通りに繋がっていた。
「それでは、皆さん、我々五つのパーティは、紳士協定を結ばないか」
鎧を着たボンドネード・ファミリーのオヤジがスカイ達に言った。
「紳士なんてガラじゃねぇよ」
ローサルが言った。
「確かに、そんな立派な物ではない。仕事を開始する時刻の選定と開始時刻に我々が集合するという条件を満たす協定だ。つまり仕事の開始時刻を決めるという協定だ」
ボンドネードのオヤジが言った。
「仕事の、やり方には干渉しないんだな」
ソークスが言った。
「そうだ」
リート・ボンドネードは言った。
「それならば我々『カーマイン団』は受けましょう」
カーマインは言った。
「俺達『灼熱の翼』も受ける」
ソークスが言った。
「何か裏でも在るのかよ」
ローサルが言った。
だがリート・ボンドネードは表情を変えないまま言った。
「裏など無い、ただ、もう午後に入って居る。仕事の開始には遅い時間だ。それに我々がアッパカパー要塞に通じるトンネルの詳細な地図を手に入れたのは現時点で初めてだ。そのため、この地図を元にして作戦を練る必要が在るだろう。それも加味して協定を結んで開始時刻を明日の午前六時と設定するのだ。受け入れてくれるかなローサル君」
リート・ボンドネードは言った。
「お前に裏がないとは信じられないが、協定には参加しても良いぜ『身内殺しのリート・ボンドネード』『裏切りのリート・ボンドネード』の、あだ名はウダルの冒険屋の間では有名と言えば有名だぜ」
ローサルが後の仲間達を見て言った。
背後の三人の仲間が睨むような顔でリート・ボンドネードの方を見ながら頷いた。
ガム男が膨らませていたガムの風船が音を立てて割れた。
スカイは、どちらも聞いたことは無かった。
「人は他者に対して根も葉もない噂を付ける物だ。私は誠実な男だよローサル君」
リート・ボンドネードは無表情のまま言った。
「お前の言葉は信用しないが結論は受諾だ」
ローサルは言った。
「そうか、それでは、W&M事務所の君達はどうなのかね」
リート・ボンドネードがスカイ達を見ながら言った。
スカイは、受諾するか迷っていた。何となく嫌な気が勘でしていたのだ。
「どうするマグギャラン。コロン姉ちゃん」
スカイは二人の顔を見て言った。
「皆が、批准しているのだ、俺達も批准するべきだろう」
マグギャランは小声で、辺りをキョロキョロしながらスカイとコロンに顔を寄せて言った。
「何だよ、その日和見主義は。無茶苦茶根性がねぇよ」
スカイは言った。
「それでは全会一致で、この協定は結ばれた」
リート・ボンドネードが耳ざとく、マグギャランの声を聞きつけて言った。
「おい、俺がリーダーだよ」
スカイはリート・ボンドネードに言った。
だが、リート・ボンドネードはスカイを無視していた。
「それでは、我々は、競合するパーティ同士では在るが、非常時の為に、お互いに連絡を取るために携帯電話の番号を交換するのはどうかな」
リート・ボンドネードは言った。
「なぜ、要塞は、こうも兵の出入りが激しいのでしょうかマーガリナ、プリム」
ポロロン様は二十メートルの高さがある窓から要塞の中庭を見ながら言った。
後に控えるメイドのプリムは、答えに窮して先輩のマーガリナの顔を見た。
同僚の先輩のメイドであるマーガリナも困った顔をしてプリムと顔を見合わせた。
ポロロン様には何も伝えてはならないと、命令されているからだった。これからアッパカパー要塞に凶暴なミドルン人の冒険屋のパーティが五つも来襲してくるなどポロロン様には決して話すことは出来なかった。そして、その来襲に備えて、アッパカパー伯爵が軍備増強で用心棒達を雇い入れている事も。
プリムから見ても、アッパカパー伯爵は子煩悩で過保護だった。だがポロロン様を目に入れても痛くないほど大切にして可愛がっている事も事実であった。それは痛いほど判るから。ポロロン様の、お側に仕えるプリム達も気を使わなければならなかった。
だが、ポロロン様の部屋の窓から見える、アッパカパー要塞の下に在る半日町では「モンスター・サーカス」の奇怪な怪物達が入った檻が搬入されて、7メートルもの巨大なロボット「虐殺王」が城門の前で動いているのがポロロン様の部屋からも見えた。ポロロン様も、それに気が付いているのだ。
ポロロン様は窓から外を見ていた。
「我がアッパカパー家とイジア家は絶望と頸木の王の時代からの敵同士。我がアッパカパー家の先祖は絶望と頸木の王の無慈悲な施政に逆らってアッパカパー要塞を築いて立てこもりました。そして絶望と頸木の王から命令を受けたイジア家の先祖が討伐に来て、それ以来両家の間には争いが続いているのです。悲しいことです」
ポロロン様は、どこか遠い所を見るような顔で言った。プリムも悲しくなった。
スカイとコロンはマグギャランとは別に、さっき居た「統合幕僚作戦参謀本部極秘会議場」に呼ばれて、やって来て夕餉を食べていた。まあ、奴は詳しくは話した事が無かったが一応騎士で貴族の出であるらしかったから、スカイ達と違うことは違っていた。スカイが今食べている食事よりもの美味い物を食っているのかと思うと腹も立ったがスカイ達が食べている料理も豪勢と言えば豪勢だった。中に詰め物が入った牛の丸焼きがデンと作戦会議室のテーブルの上に乗っかっていた。これがレストランで食べ損ねたイジア料理なのかもしれなかった。取りあえず、味は少し塩気が強いようにスカイには思えたが美味いことは美味かった。その他にはテーブルの上には黒っぽいソーセージや分厚く切ったハムを焼いたものや、丸いドーム型をした四十?ぐらいの直径があるパンなどがサラダなどと共に沢山乗っかっていた。取りあえず量はケチケチしないで沢山在ったから、スカイも気にしないで食べていた。
一緒に食べている他のパーティのメンバー達にも欠けているメンバーが何人も居た。ボンドネード・ファミリーとキャンディ・ボーイズは全員居たが、灼熱の翼からは二人居なくなっていた。カーマイン団からも三人居なくなっていた。どいつが貴族だったかが判るというものであった。
スカイの横で食事を食べているコロンの隣りではサラダを沢山盛りつけた皿と椅子を持ってきたリッカ・グルンが延々とロボットと一緒に話し続けていた。
コロンとリッカの話の内容はスカイには理解は出来なかった。リッカはコロンの事を誉めているようだった。
作品名:情熱のアッパカパー要塞 作家名:針屋忠道