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彼の記憶を探り共有しようとしたはずが、更に深い場所にある少女に繋がってしまったのだろう。しかしこれはチャンスだった。少女の視点から、世界を見ることができる。少女の行動から、想いから、死の真相が探れるかもしれない。

（･･･どこにいくつもりなんだろう）

少女は玄関へ向かうと、ゆっくり鍵をあけ、チェーンを外した。母と弟は眠っているのだろう。裸足の足にスニーカーを履いて、マンションの廊下へ静かに出る。辺りを警戒しているようだ。エレベーターに向かう。廊下は明るいが、景色は夜景だ。真夜中なのだろう。少女は小さな手提げを持っていた。人気がないのを確認してからエレベーターに乗り込み、駐輪所へとやってきた。自転車にまたがると、夜の中を走り出す。

（まだ、風が冷たい）

伊吹は頬に当たる風の冷たさを感じている。刺さるような冷たい夜風だ。

――もっと遠く。
――もっと遠くに。

少女の意識が、伊吹にも感じられる。彼女はどこへ向かっているのだろう。

――家から、少しでも遠いところじゃないとだめ。

（どこへ？なぜ家から離れるの？）

少女の意思のまま、伊吹は自転車をこぎ続けている。夜の中、幾つもの裏道を通りぬけ、道路を横断し、三十分は走り続けただろうか。少女は郊外の小さな住宅街にいた。一角にある木の生い茂った場所に自転車を停める。

（･･･公園！）

伊吹は確信した。ここだ。ここが雪也の言っていた公園に違いない。
明滅する街灯。その下に砂場が見えた。錆びた遊具もある。少女は手提げを持って、公園の隅にある電話ボックスに駆け込んだ。