窓のむこうは 続・神末家綺談7
一度きりの邂逅
暗い。冷たい。何だろう。ふわふわしている。夢か。伊吹はゆっくりと覚醒する。
「・・・?」
そこは見知らぬ部屋だった。厚いカーテンの向こう、隙間から闇がのぞいている。天井の電灯は消えていた。小玉の心もとない明かりの下、伊吹は立ちつくしている。
(夢・・・だよね?確か、雪也くんと手を繋いで眠った)
彼の見る、少女――小金井真咲が関わっているであろう夢を、伊吹もまた追体験しようという試みが、瑞の提案で行われることになったのだ。
(雪也くんの夢、公園で電話が鳴る夢って言ってたけど・・・ここは、どこかの部屋だ)
リビングらしい。消えたテレビ。テーブルに椅子。ソファには、洗濯物が畳まれることもなく積み上げられている。
(ここどこ・・・)
もっとよく観察しようとしたところで、伊吹は気づいた。身体が動かせない。いや、正確に言うと、自分の意思で動かせない。
勝手に歩き出し、きょろきょろと辺りを見渡しているが、これは伊吹の意思ではない。戸惑いはそれだけではなかった。自分はパジャマを着ている。淡いピンク色。その上にカーディアガンを羽織っていた。夏じゃない。おそらく、春の夜。
(・・・これ、俺じゃない)
前にも経験した。あれは、そう。京都の須丸家でのこと。眠っていた自分のもとに歩いてくる瑞の視点から、世界を見たことがあった。夢を介して、別の第三者の中に入り込んでしまう。
(これは雪也くんの記憶じゃない・・・たぶんこれは、雪也くんに憑いてる少女の記憶なんだ・・・)
作品名:窓のむこうは 続・神末家綺談7 作家名:ひなた眞白