窓のむこうは 続・神末家綺談7
何時だろう。午前二時か。ずっとこうして座り込んでいる間、頭の中を色んな考えが流れては消えていった。キッチンに伊吹の作ってくれた夕食があったけど、もうすっかり冷めている。悪いことをしたな、と雪也はぼんやりと思う。
「・・・・・・」
机に乗っている封筒。その手紙に、もう一度目を通そうという気持ちにはとてもなれなかった。力を奪われて、気力を奪われて、いまの雪也に残っているのは、たった一つの感情だけだった。
「・・・なあ、つらかっただろ」
そばにいるであろう少女に問いかける。自分でも驚くくらいに、低く感情のない声だった。
「自分の未来と引き換えに、弟を守ろうとしたのか」
屑のような、男と母親のせいで。
小さな女の子の、未来が奪われてしまった。
「・・・悔しいだろ」
立ち上がる。地面が揺れている気がする。怒りのせいかもしれない。
「・・・今度は俺も一緒だ。行こう」
帰宅するときに見た。701号室に明かりが灯っているのを。帰っているのだ。
「・・・弟を、守りに行こうな」
静まり返った廊下に出る。ドアの閉まる音が夜に反響して静寂を切り裂く。激情は、堰きとめられて溢れ出すぎりぎりのところまで押し寄せている。それを自覚し、かつ制御している自分を、雪也は不思議に思う。
作品名:窓のむこうは 続・神末家綺談7 作家名:ひなた眞白