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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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窓のむこうは 続・神末家綺談7

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三人は小雨の降る夜の中で、じっと黙り込んでいた。マンションの雪也の部屋。彼が少女と邂逅を果たしたあの窓の外は、いまや漆黒の闇だ。

「・・・これは遺書なんかじゃない。告発だったんだ」

瑞の声にも、やるせない思いが滲んでいるのを伊吹は感じる。

「この上なく厳しい告発だ。少女は命と引き換えに、母親を裁いたんだ」

虐待の末の、自殺。
しかしそれは未来と現状を憂いてのものとは、違う。弟の未来を守るため、母親の目を覚まさせるため。
自分のためじゃなくて。自分の苦しみを終わらせるためではなくて・・・。

「・・・こんなのって・・・」

伊吹は、想像以上の結末に大きなショックを受けた。自分とさほど年の変わらない子が、こんな思いを抱いて死んでいった。弟を守りたいその一心で、母を罰するそのために。

「自宅から離れた場所に、ややこしい手順を踏んで伝えたのは、内容を家族に見られるわけにはいかなかったからだな。飽くまで他人の第三者が見つけなければ、意味がなかったんだ」

回りくどい一連の流れは、そのためだったのだ。

「・・・雪也くん、大丈夫?」

雪也は、あの手紙を見てから、一言も口を利かない。ソファに深く身を沈めて、無表情で窓のむこうを見つめている。虚脱したふうでもなく、怒るでもなく、ただじっと動かない。感情を発散させないのが、伊吹には心配だった。

「警察には明日行こうよ・・・ねえ瑞。雪也くん、夢のせいでろくに休めてないし、今日はもう遅い時間だし」
「そうだな」

お暇しようか、と伊吹は立ち上がる。雪也を一人残すのは心配だったが、もう帰らなくては佐里が心配する。

「雪也くん・・・ご飯食べて休んでね」
「うん・・・ありがとな」
「また明日来るから」

うん、と頷く瞳も、伊吹を通り越してどこか別の景色を見ているかのようだ。
瑞とともに部屋を辞し、エレベーターホールまで歩く。

「・・・雪也くん、大丈夫かな」
「どうかな。だいぶ・・・落ち込んでるだろうけど」
「そうだよね・・・」

託されたものの大きさよりも、それを託して死んだ少女の心情と人生を思うとつらかった。大人の理不尽さとか、世界の残酷さとか、雪也はそういったものに対する自分の無力さに虚脱しているように、伊吹には思えた。

「あの子は救われるかもしれないけど・・・雪也くんに大きな傷が残ることになるね」
「・・・・・・かもな」

足取りが重いのは、雨のせいだけじゃない。疲れた身体にのしかかる結末に、伊吹は俯いて息を吐く。





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