窓のむこうは 神末家綺談7
顔しか知らない少女の名前を知ったのは、新聞で。小学六年生。
「それだけで、おまえに憑くかね」
「・・・目が合ったんだよ」
「は?」
あれは夕刻のこと。真っ赤な夕焼けが、部屋の中を染めていた。帰宅した雪也は、一人赤く染まるリビングでテレビを見ていた。
「ふと窓の外を見たら、女の子がさかさまになって、落ちていくとこだった」
時間にすれば一瞬だろう。しかし、雪也の目には確かにはっきりと映ったのだ。ゆっくりと落ちていく少女の虚無の瞳が、確かに雪也の視線とぶつかったのだ。
「・・・悪魔めいてるな、そういう瞬間に窓を見てしまうなんて。ちょっと怖い」
瑞が呟いた。
「わけわかんなくて・・・気づいたら救急車やら消防車やらいっぱい下に停まってて」
あのあと、しばらく動けなかった。死ぬ直前の人間と目が合ったのだと理解してから、怖くなった。女の子の目。虚無の目。がらんどうの瞳。あの子の生きている最後の姿。
「ずっとそのこと考えてる。やきついて離れないんだ。目があったのなんて一瞬だったのに、鮮明に思い出せる」
作品名:窓のむこうは 神末家綺談7 作家名:ひなた眞白