光を残して
「・・・おまえそれ伊吹くんに言ったら、泣くと思うぞ。もうあの子には、おまえなくして幸福なんて・・・ありえないだろ」
無邪気な笑顔が蘇る。まだ小学生だ。瑞との別れを本当に納得できたとしても、それは理屈の上でだけだ。感情はそうはいかないだろう。
「そうかもしれん。でも、大丈夫」
「なにが大丈夫だ。無責任なこと言いやがって・・・少しはあの子の気持ちも――」
「俺はただいなくなるだけじゃないんだ」
紫暮はその言葉に身体を堅くする。
「伊吹はもう、俺を思い出して泣くこともないだろう。寂しさも懐かしさも・・・俺にまつわるすべてを、思い出さなくてもすむ」
死別よりもつらい、別れ・・・。
「寂しさも悲しさも懐かしさも・・・全部、俺が持っていくから。だから・・・大丈夫だよ」
その言葉の真意を読み取れない。戸惑う紫暮をよそに、こちらを向いた瑞が笑った。儚い。消えてしまいそうな笑みに、悟る。別れを一番畏れているのはこいつなのだと。
「そんなの――」
大丈夫でも何でもない。忘れてしまう?この寂しさも、ともに過ごした時間も、すべて?
「何だよ紫暮、どうした?」
涙がぽつんと零れたことに、紫暮は気づいた。
「・・・は?なんだこれ」
初めてだった。自分が意識せず、涙を流すなんて。同情?憐憫?寂寥?違う、感情が流しているのではない。もっと奥深い、感情の届かない、名もなき場所、心の奥から落ちた、一粒。