光を残して
たぶん、もうすぐ。そう遠くない未来に、この式神はいなくなるのではないか。
それを承知で、すべて受け入れて、伊吹は瑞のそばにいるのだ。それは想像していたよりも、ずっと悲壮な決意だった。いなくなる、というのがうまく想像できない。
安全な場所に車を停車して、紫暮は瑞のとなりに腰かけた。小さな光が幾つも集まっている。車のライトが並ぶ道路は、光の川のように見えた。
「・・・きれいだな」
呟きは、いまこの場所で紫暮に向けられたものではなく、いつかの遠い時代、この都にいたであろう自分に言い聞かせているような。紫暮はそんな気がした。
美しいものを、美しいと思えるようになるまで、こうして素直に言葉にできるようになるまで、瑞はどれほど感情の森で迷ってきたのだろう。憎しみと悲しみは癒えたのだろうか。救われていると彼は言ったが、本当の救いはきっと、妹とともにあるのではないか。
「・・・おまえがいなくなったら、残された俺たちはどうしたらいい?」
瑞が。
こんなに大きな存在だなんて、知らなかった。
いなくなる日が来るかもしれないなんて・・・考えたこともなかった。
胸がすくような冷たさが、どんどん増していくような錯覚。
「紫暮」
簡単なことだよ、と瑞は笑った。
「生きて、幸せになればいい。それだけ」
生きて、幸せになる。
瑞のいない、この世界で。