光を残して
京都市街の夜景が眼下に見える。適当に走っているうちにすっかり郊外まできてしまったらしい。峠道に他の車はおらず、まさかここは心霊スポットではないだろうなと紫暮が危惧したそのとき。
「おまえもっとそうやってさ、素直になればいいのに。うおっ!」
思わずブレーキを踏んでしまった。そんなことを言われたのは、初めてだ。動揺した。
「紫暮?」
「・・・気色悪いことを言うな」
感情を抑えて冷静であれと、そう教えられてきたから、そんなことを言われても困るではないか。黙り込んだ紫暮の心情を察してか、瑞は穏やかに言った。
「・・・清香の跡目として期待に応えようという姿は立派だと思う。でも、損してるな、無理してるなって思うよ、おまえを見てると。無理しなくていいンじゃないの。清香だって言うなれば、己の野心のために動いてるわけだろう。おまえ、少し身勝手になってみろ」
開け放った窓に肘をのせ、夜景に芽をやりながら瑞が言う。柔らかな口調だった。考えたことなかった、そんなこと・・・。
「もっとまわりに甘えて、助けえもらえよ」
ステアリングを握ったまま黙する紫暮は、その優しい口調が気になった。いつもはもっと、ふざけたり茶化したりするくせに。
これでは、まるで――遺言。
(・・・別れの言葉みたいじゃないか)
一抹の不安のようなものが過ぎるが、紫暮の胸中を知ってか知らずか、瑞の声は軽薄ないつもの口調に戻っていた。
「ジジイの言うことは、素直に聞いとくもンだぞお。しかしここ、夜景すごいな。ちょっと心霊スポットみたいだけど」
そんなことを言って、笑っている。疲れたなあ、と言い車外に出ると、ガードレールに腰かけて紫暮を手招いた。
(伊吹くんは・・・こんな寂しさと戦っているのか・・・)
死よりもつらい別離、と伊吹は言っていた。
瑞は、自分たちの手の届かないところに行ってしまう。