光を残して
そんな彼女が、瑞のために一族のすべてを無に帰すような真似をするとは、紫暮には到底考えられないのだが・・・。
「清香は昔から俺のこと大嫌いでなあ・・・あいつずっと穂積に惚れていたけど、結ばれる訳もないんだからと散々からかったから」
「おまえな・・・」
「だったらせめて役に立とうと、あいつはいじらしいくらいに頑張っていたな。旦那と結婚してからは、女の子は好きな人に愛されて大事にされることが幸せなんだと実感したそうだ。そんな清香だから・・・みずはめの運命に同情したのだろう」
女の子の幸せ、という言葉に、胸が痛んだ。
誰だってそうやって生まれて、望まれて、恋をして、幸福になっていくはずなのに。
みずはめも、清香も、そして絢世も。
「・・・絢世は、伊吹くんのことが好きなんだ」
そばで見ていて心が和む組み合わせだった。まだ不器用な二人がこれから育てていくかもしれない小さな芽を、一族の鉄の掟が摘んでしまうのだと思うと悲しかった。
「伊吹も絢世に惚れてるよ。ただ、伊吹に運命の花嫁がいる限り、結ばれることは叶わん。だけど・・・」
「だけど?」
「――運命が変わるのなら、違った未来もあるかもな」
運命は変わるのだろうか。瑞の運命は、変わっただろうか。殺されて、無残に食われ、呪われた獣として転生して、妹に封じられ・・・いまは雨水の化身としてここで生きている。
「瑞、おまえの願いは、運命を変えることなのか・・・?」
己の、妹の?それとも伊吹の?
「・・・どうかな」
「俺には言えないか。そうだよな、俺はおまえの主でもなければ、友だちでもないからな」
「おいおい、何だよ。そんな卑屈になるなって」
暗い声に驚いたのか、瑞が慌てたように身を乗り出してくる。
「・・・卑屈にもなるよ。俺には伊吹くんほどの力や導きはない。あの子はやっぱり特別なんだ。特別なものを持って生まれてきたんだ。おまえの運命を変える存在として」
沈黙。しまった、と紫暮は後悔した。こんなのはただの嫉妬で、みっともない愚痴だ。弱みなんて見せたくないのに。
「何だよおまえ、やきもちかー?」
「ちがう」
「子どもっぽいところもあるンだな」
「うるさい」
「照れンなよ」