光を残して
「さーて、若者らしく心霊スポットでも巡るー?」
「おまえがそんなとこなんか行ってみろ、京都の心霊スポット壊滅するわ」
鬼だろうか悪霊だろうが貞子だろうが逃げ出すだろう。
大学の敷地から出て、適当に車を走らせる。このへんは京都の北側に位置しており、学生向けのマンションやスーパーが並ぶが、山際も見え市街地とは違い閑静な雰囲気だった。
「伊吹くんの様子はどうだ。昨日おまえ、話したんだろ」
「・・・大丈夫だろう、なんて心から思っちゃいないけど、大丈夫そうだ。ぐーすか寝てる」
「・・・そうか」
夕日が沈んでいく山際が、紺碧に染まっているのが見える。
「瑞、おまえの願いって、何なんだ?」
伊吹が言っていた。瑞の願いを叶えるのだと。そこに死別よりもつらい別離が待っていても、もう迷わないと。
「それを叶えれば・・・おまえと妹は救われるのか?」
助手席からは何も返って来ない。考え込むような沈黙のあとで、小さな呟きが漏れた。
「・・・救われる、と言ったら、俺はもう救われていると思う。穂積に出会って、こうして人間としての感情を与えられて」
「・・・清香ばあさまも、全部知っているのか」
「知ってるぞ。穂積と清香は、共犯なんだ」
共犯?
「俺の願いを叶える為に、一族の歴史もこれまでの功績も、何もかも放り出すつもりでいる」
したたかな、だが慈愛に満ちた祖母の美しい顔が浮かぶ。厳しい人だ。だがそれは愛情ゆえなのだと、わかる。ちゃんと伝わる。そこが清香のすごいところだと紫暮は思う。
「あの人は、すべて知っているのか・・・」
「すべてを知った若いときの穂積に、賛同していたからな。秘密の協定を結んでいる」
どういう思いで、と祖母の心情を想像してみる。清香は、神末を守るためならば神でも殺す、などと揶揄されるくらいのやり方で、須丸家をもりたててきた。女当主でありながら、政界にも多くのパイプを持っていて、日本中を飛び回っている。