光を残して
(伊吹くんは・・・それでも前を向いている)
あの子どものどこに、それほどの強さがあるのだろう。紫暮の生き方とは真反対の伊吹は、感情を露にし、言葉を不器用に使いこなし、みっともなくても走り続けることをやめない。その姿が胸を打つ。自分にはないものをあの子は持っていて、それは神末の長男として生きるための武器でもあるのだ。
どんなに自分を律しても、泣いたり怒ったりしながらも前を見据えるあの子どもの強さには、適わない。それこそが、伊吹が過去を紐解くに相応しいとして選ばれた理由なのかもしれない。
「そこのおにーさん、のってかなあい?」
弓道場を出て正門に向かったところで声をかけられた。夕闇の迫る黄昏の中に、瑞が立っている。このキャンパスにいてもなんら不思議ではない、若者らしい格好で。夏から少し伸びたミルクティー色の前髪の隙間から、いたずらっぽい目が覗いている。
「暇なのか、おまえ」
「伊吹は昨日から泥みたいに寝てるし、穂積はそばについてて遊んでくンないし。若者らしく、どっか行かない?」
お手伝いさんに車借りたよ、と瑞が笑ってキーを指で回す。
「紫暮、おまえ俺に話があるだろ?」
「・・・・・・」
「伊吹も心配してたぞ。おまえのこと。腹割って話そう」
読まれている。やはり適わないな、この式神にも、その主にも。車の助手席のドアを開けてから、はたと思いつく。
「・・・ちょっと待て、おまえ免許あるんだっけ?」
「なーいヨっ」
「おっまえ・・・!社会悪だぞ!」
乱暴にキーを奪い取って運転席に座る。非常識なやつだ。