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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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光を残して

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的を見据える。何だろう、今日はいやに遠く感じる。
肘を意識しながら弓を持ち上げる。打ち起こし。静かに呼吸をとめる。再び吐き出しながら、弓を持つ手を的へと向け、反対の手で矢をひきしぼる。

キリリ、という音が耳に届くのを意識してしまい、これはだめだなと紫暮は思う。こんな些細な音が気になるなんて、集中していない証拠だった。

思ったとおり、放たれた矢は的を外れて安土に突き刺さった。

「調子悪いですねえ、珍しく」

射場を出ると後輩が目を丸くしている。こういう日もあるよと曖昧に笑ってみせた。ゆがけを外して、帰り支度を始める。

「今日はあがりですか?」
「ん、お疲れさん」

弓道家である祖母の影響で小学生のときに始めた和弓。須丸家は著名な弓道家を多く輩出している家系でもあり、紫暮や絢世もまた、清香に厳しく指導してもらってきた。

(矢の乱れは心の乱れ、か)

胴着を脱ぎ、ため息をつく。どんなときでも心に波をたてず、冷静に自分を客観視せよ。迷うことなくぶれることなく、まっすぐに目的に向かう進む矢であれ。清香はそう教えた。

そうあろうと生きてきた。いずれ須丸を継ぐ者として、清香を見ていればその心構えは必要だと思ったし、何より紫暮の生き方に合っていた。取り乱したり、感情を露にすることは、損だと思っていたから。
己を律して、何事にも動じず、常に最短距離で目的を達する。そういう生き方。いずれ人の上に立つ者には必要な資質だった。そして紫暮は、そういう生き方のほうが楽なのだと、幼くして気づいていた。

(それがこのざまだ)

伊吹が暴いた瑞の過去。それは紫暮にとっても衝撃の内容だった。自分には、瑞の妹の血が流れている。須丸が仕えてきた神末の歴史は、血と復讐と悲しみに彩られていた。
衝撃は、これまでの紫暮の生き方を崩しそうだった。血塗られた歴史。命を食らい力を得て、生きながらえた人々。瑞の無念を思うと、これまでとの彼との関わりを思い返さずにはいられなかった。

作品名:光を残して 作家名:ひなた眞白