ねがいがかなうまで
「おまえの痛みも、苦しみも、知らないまま、生きていくところだった・・・」
「・・・・・・知らないままじゃだめなのか。苦しみなんかないほうが、生きるのは楽だ」
「わかんないけど・・・でも、」
内面に秘めた痛みを知ってこそ、その美しさが際立つのと同じように。
ひととひとの関係もそうなのではないかと思うのだ。ただ伊吹と瑞の場合は、生い立ちや背負っているものが大きすぎて、一般人のそれとはだいぶずれた関係かもしれないが・・・。
「どんなおまえでも、知れてよかったんだ・・・だって瑞のことは、俺にとって無関係じゃない。全部直結して俺自身に繋がっているから・・・」
伊吹は瑞と生きると決めた。そのための覚悟も持っている。ずべてを知った今でもそれは変わっていない。
「もう二度とあんなふうに、おまえを悲しませたくないって思えたから・・・」
獣が月に向かって吼えている。すべてを呪って、すべてに絶望して・・・。あの光景が、離れない。
「そのためなら、何だってする。おまえの願いも、きっと叶える」
伊吹は瑞の横顔を見つめながら言った。
悲しい未来が待っている。瑞はそう言い切っていた。それでも、やはり伊吹の心は揺るがない。瑞のためなら何だってする。贖罪とか、義務とか、そういうのは勿論あるのだけど、この感情は何かに誰かに強いられて抱いたものでは決してない。
幸せになってほしい。そう思うから。心から。こんなにも、強く。
「もうしばらく・・・おまえたちとこうしていたいなあ」
瑞は夕焼けの反射する水面を見つめながら、静かに呟く。感情の読み取れないその視線を追い、伊吹は言葉を待った。