ねがいがかなうまで
湿っぽいのは嫌だ。このところ泣いてばかりで、苦しいばかりで、瑞と笑いあうことがなかった。だから伊吹は瑞を誘って、観光客や若者で賑わう三条河原町へやってきた。しかし瑞は青ざめている。
「ここ昔、処刑場でさ・・・飢饉のときには川に死体がぷかぷか・・・そんなところで語り合うの・・・?」
「い、言わないでよそんなこと・・・賑やかなほうが、俺はいいかなあって!」
「・・・なんでもいいけどネ、俺は」
川べりに腰掛けて、水面を眺めた。
「落ち込んでるな、伊吹。須丸邸ではずいぶん気丈に振舞っていたみたいだけど」
見抜かれている、と伊吹は赤面する。紫暮や絢世がいる前で、女々しく泣き続けるのは嫌だった。だから今朝は笑顔で過ごしていたのだが、当の瑞を前にして、元気など出るはずもなかった。
「ごめん・・・元気出さなきゃとは思うんだけど」
夢を思い出す。慟哭する獣。あの姿を思い出すだけで、胸が痛んで涙など簡単に溢れるのだった。
「俺は悪いご先祖様だな。子孫に、こンなに気ィを遣わせて」
ご先祖様・・・。そうだ、瑞は初代のお役目様。伊吹の祖先にあたるのだ。
「でも・・・知らなければよかった・・・とは、思わない・・・」
伊吹は搾り出すように言った。少し離れたところに座っているカップルが、きゃあと楽しそうな声をあげるのが聞こえる。
「・・・怖いと思ったし、自分たちが尊いものを犠牲にして生きてきたんだって、消えたくなる。それでも、知らないまま笑っていた今までの自分より、ましだって、思いたいんだ」
何も知らなければ幸せだっただろう。もう引き返せないのだと思うと身体が震えた。
それでも。
「だっておまえのこと・・・何も知らないまま、生きていく、ところだったっ・・・」
泣きたくないのに涙が零れそうになり、伊吹は顔を伏せて続ける。