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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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月に吼えるもの 神末家綺談6

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みずはめの、絹のような手が、少年の乾いた手をとった。それだけでもう、渇きや痛み、孤独が癒えていくのだった。

「・・・兄様、ご存知でしょうか。近々父上が、都で雨乞いをすると申しておるのです」
「都で・・・?」
「都は、もうずっと雨が降っておらずとのこと。人々は渇き、大勢のものが苦しんでおるとか。帝(みかど)からの勅命なのだと」
「・・・そうか、」

帝の寵愛を受ける絶好の機会だと、父は考えているのだろう。都で雨を降らせることが出来れば、一族は朝廷と帝の加護をうけ、ますます繁栄するはずだ。

「・・・みずはめは、恐ろしゅうございます。また兄様が苦しむことになるのかと思うと・・・」
「苦しいことなどあるものか。それはおまえも同じであろう」
「兄様・・・」

向こうの通りから、みずはめを呼ぶ女官の声が聞こえてくる。

「さあ、おいき」
「兄様、離れていても、みずはめは兄様のことをいつも思っておりまする」

少年の痩せた身体をぎゅうっと抱きしめる妹。小さな身体を引き寄せて、少年はそのぬくもりを静かに受け止める。温かい。生きていてもいいのだと、彼女が言ってくれている気がした。それだけで十分だ。このぬくもりが、同じ空の下で息をしているのだと思うだけで、どんなつらいことでも乗り越えられる、少年は心から思うのだった。

「・・・さあ、お行き」

とんと肩を叩いてやると、涙をためた目で少年を見つめる妹。名残惜しそうに離れる二つの手。みずはめは長い髪を翻して走り去った。

「さだめの子よ、にしのそらがもえておるのがみえる」