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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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月に吼えるもの 神末家綺談6

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「兄様、お許し下さいませね」

走ってきたのか、頬が赤い。嬉しそうに笑う妹の顔を見ると、つらいことも、孤独も、すべて水となって流れ出ていってしまうようだと少年は思う。

みずはめは、少年にとってただ一つの光だった。母は少年らを産んですぐに亡くなり、雨師一族ではない、有力な貴族から迎えられた父は、富と名声にしか興味のない冷酷な男だった。少年を使い捨てのように扱い、みずはめを金儲けの道具として大切にしている。
みずはめは、違った。兄を大切に思っていた。身分が違うとどれほど教えられても、兄を慕って、心配して、こうして禁を破ってたびたび会いに来るのだった。

「お会いできぬのは、つろうございます。たった二人の兄妹ではありませぬか」
「だからといって・・・見つかれば、また父上に叱られるではないか」
「構いはしませぬ」

互いに、黒く長い髪をしている。髪は神に通じるとされ、神に祈りを届ける役目にある二人は、切ることは禁じられていた。顔はそれほど似ていないが、みずはめは母によく似たのだろう、聡明で美しい顔立ちをしている。

「・・・こんなに痩せられて」

みずはめは、少年の手首をとった。

「みずはめは、兄様がこんなふうに扱われることがつろうございます」
「心配をするのじゃない。これがわたしのお役目だ。おまえのためならば、喜んで飢える」
「それが、つろうございます。兄妹なのに、なぜ兄様ばかりがつらい思いをせねばならぬのです。みずはめも、ともに苦しみとうございます」

妹の目に涙が光っている。雨の雫と同じ、美しい光を反射して。

「そのようなことを言うのでない」
「兄様をお守りしたいのです」