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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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月に吼えるもの 神末家綺談6

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彼女に伊吹の姿は見えていないようだ。これが夢だからなのか、この夢の出来事があった時代に伊吹がいなかったためか・・・。

「お許し下さいまし」

彼女は獣のそばに近づくと、そっと額づいて涙を落とした。

「こんな形でしか兄様を止められなかった」

彼女はそっと毛並みを撫でる。獣はもう殆ど生きていないように思えた。

「この先、何十年、年百年と時が過ぎる中で・・・兄様の魂が慰められるときが来ることを、みずはめは一心に祈っておりまする・・・」

フワ、と獣の毛並みが揺れたかと思うと、淡く輝き始めた。

「いつか、出会える時代がきっと来ます」

光が強くなり、獣の姿が見えなくなる。

「兄様の魂を救う者が、いつか必ず・・・」

光が静かに消えたかと思うと、獣の姿も消えていた。残されたのは、呆然と座り込んだ伊吹と、獣のいた場所に落ちている櫛だけ。みずはめはその櫛を拾うと、伊吹に向けて差し出した。

「あのっ・・・俺・・・」

彼女の時間と空間が、伊吹と繋がった。どうしてよいかわからずうろたえる伊吹に、みずはめは涙にぬれた瞳で小さく笑いかけた。