月に吼えるもの 神末家綺談6
「どうか兄様を」
その涙声に誘われるように、伊吹は手を出した。櫛がのせられる。地下書庫で見つけた、瑞の魂の器となっている、あの飾り櫛だった。
受け取ったと同時にみずはめの気配も消えた。
残されたのは、音のない森と伊吹だけ。
「・・・瑞、」
思い出せ。自分は何のために、ここまで来たのかを。
伊吹は自分を鼓舞するように立ち上がる。
自分は選ばれたのだ。彼女に、そして瑞に。
濁った血の連鎖をとめ、傷ついて眠る魂を救うために。
そのために生まれた。そのためにこの時代で瑞と出会ったのだ。
いつまでも泣いてはいられない。目を、覚まさなくては。
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作品名:月に吼えるもの 神末家綺談6 作家名:ひなた眞白