月に吼えるもの 神末家綺談6
「・・・瑞、」
咆哮はやんだが、涙は雨のように降る。言葉をなくしても人間だった頃の感情が残っているのだろうか。それでも徐々に呼吸は浅くなっていく。最期のときが近いかのように。
ぐったりとした身体を支えるようにしながら、伊吹は頭を抱いてやった。グ、と苦しそうに喉が鳴り、口から黒い血が零れた。
抱いていてやることしかできない。何もできない。無力感に苛まれながら、少しずつ獣の命が消えていくのを感じていることしかできない。
りん。
音が聞こえた。鈴が鳴るようなかすかな音。
「・・・誰、」
ひとの気配。振り返ると、木立のそばに、目にも鮮やかな緋色の袴が見えた。長い黒髪が美しい。金の冠、緑の榊。悲しみに暮れた表情は、どこかで・・・。
(絢世さん・・・?)
ああ、絢世だ。絢世によく似ている。そうか彼女の血は、須丸へと受け継がれていったのか・・・。
「兄様・・・」
みずはめが近づいてくる。
(俺に気づいていない・・・?)
作品名:月に吼えるもの 神末家綺談6 作家名:ひなた眞白