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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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月に吼えるもの 神末家綺談6

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「つらかったろう、痛かったろう・・・」

飢えと渇き。裏切り。この魂が深く傷ついてきたことを、伊吹は本当の意味でようやく理解したのだ。

脳裏に蘇る。瑞の笑顔や、手のひらの温かさ。あの不器用な優しさを思うと、嗚咽が零れた。どういう思いでいたのだろう。どういう思いで、伊吹を愛してくれたのだろう。

「・・・ひどい、」

よくよく見えれば、獣の身体にはたくさんの傷が見える。切られた傷や、皮膚がめくれあがっているところもある。いたるところに矢が刺さっていた。

「・・・瑞、」

前足の傷に触れると、真っ黒な血が伊吹の手を汚した。

「ここが痛むのか・・・?」

獣は伊吹の言葉を理解するかのように、鳴くのをやめて座り込んだ。なんとかしてくれ、とでも言うように、鼻先で前足を何度もこする。肉がえぐれて骨が見えている。どうしてやることもできない。衛士や射士にやられたのだろうか。

「・・・呪術も」

大きな足だが、身体の割には細く、狐に似ていた。それでも伊吹の胴回りほどもあるのだが。その足首あたりに、文字が刻まれているのがわかる。これは呪術だ。足枷をするように動きを封じられたのかもしれない。都を焼き尽くす獣は、ありとあらゆる手段で痛めつけられたのだろう。そして最期は、妹に・・・。