小説が読める!投稿できる!小説家(novelist)の小説投稿コミュニティ!

二次創作小説 https://2.novelist.jp/ | 官能小説 https://r18.novelist.jp/
オンライン小説投稿サイト「novelist.jp(ノベリスト・ジェイピー)」
ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
新規ユーザー登録
E-MAIL
PASSWORD
次回から自動でログイン

 

作品詳細に戻る

 

月に吼えるもの 神末家綺談6

INDEX|29ページ/33ページ|

次のページ前のページ
 


「・・・!」

ごう、と強い風が吹いた。音のなかった世界が崩れ去り、木々は嵐を予感するかのように鳴いている。

おおおおん、おおおおん

(鳴き声・・・っ!)

身体を押し戻すほどの咆哮が響き渡り、瑞は耳を押さえる。

「・・・瑞、」

瑞だ。瑞が泣いているのだ。猛烈な風と響き渡る咆哮を押しのけるようにしながら、伊吹は進む。池が見える。真っ赤に染まった池が。その池のほとりに、見たこともない巨体があった。

「瑞・・・なのか・・・?」

真っ黒の毛に覆われた身体。まるで大きな山のようだ。伊吹はそばに寄ってその獣を見上げた。獣は天に向かって鳴き続けている。異形の獣だった。

「瑞・・・!」

狐のように長い尻尾と大きな胴体。尖った耳は長い。前足と後ろ足のほかに、背中から足のようなものが突き出ていた。五本手足。裂けた口からは牙が覗いている。角のようなものが額と、背中や腹から突き出ている。大きな目に白目はない。ボーリングの玉ほどもある目からは、ぼたぼたと涙が零れていた。

それは呪われし姿だった。己の憎しみと悲しみを体現するかのような。

「瑞・・・!」

伊吹は獣に駆け寄ると、その毛並みに抱きついた。恐怖はなかった。かわいそうで、申し訳なくて、ただひたすらにその存在が悲しかった。

「ごめん・・・瑞、ごめん・・・」

悲痛な声で吼え続ける獣の毛を、何度も何度も撫で続ける。