月に吼えるもの 神末家綺談6
この後起こったことを、わたしなりに史料をもとに推測してみる。
少年の無残な遺体は、池に投げ込まれたという。
当主の思惑通り神の怒りを買い、都は水害になるはずだった。
しかし、そうはならなかった。
水害よりもおそろしいものが、人間たちを襲った。
少年は神に捧げられた供物。人神であった。
その血に宿る力が、怒りと憎しみを糧として、強大な獣となって転生したのだ。
池の竜神は食われた。神を食ったのは、黒黒とした巨大な獣だったという。既存の生き物などいずれも当てはまらぬ、おぞましき姿だった。
内裏にいた少年の父親が、吐き出す炎に生きたまま焼かれて死んだ。
官吏も、民衆も、男女も子どもも関係なしに、獣は殺戮を続けた。
都は火の海となった。
少年の妹が、自らの命と引き換えに、獣を封じた。櫛を依り代にして。
獣は、一番愛した者の手で調伏された。
巫女は死んだ。
作品名:月に吼えるもの 神末家綺談6 作家名:ひなた眞白