月に吼えるもの 神末家綺談6
「・・・・・・」
こんなことが、許されるのか。
こんなことが。
天が正義と慈悲で持って天下泰平を治めているなど嘘だ。
なぜ自分は、こんな最期を迎えなければならない。
怒りが、指の先まで行き渡っていくのがわかった。途切れる意識を必死で繋ぐ。
「食ろうてよいぞ。飢えておるのだろ?」
父の声が遠く聞こえた。飢えていた衛士と村人に向けられたものだ。彼らは這いつくばるように少年のそばに屈みこむと、その血肉を貪った。
「終わったら遺体を池に投げ込め。それで仕舞いだ」
生きながらにその身を食われながら、少年は自らの頭上に煌々と輝く月を見ていた。命果てるその瞬間まで。
作品名:月に吼えるもの 神末家綺談6 作家名:ひなた眞白