月に吼えるもの 神末家綺談6
少年の血肉を口にしたものには、人神の力が宿った。
これが神末一族の始まりとなったのだろう。
巫女を聖者と崇めた一族は、彼女の魂を慰めるために、代々長男の命を巫女に捧げるようになる。
これが時代を流れていく中で形を変え、婚姻という大系になっていったのだろう。
瑞。
わたしが心を与えた式神が、なぜ生まれてきたのか。このような悲しい物語が根底になるとは、知らなかった。衝撃だった。
わたしの身体にも、流れているのだ。瑞の血肉が。
わたしは、わたしたち神末一族は、瑞を食って生きながらえた一族なのだ。
瑞こそが初代のお役目であり、わたしたちは罪深いその子孫なのだ。
わたしが婚姻しているのは、彼の最愛の妹、みずはめなのだ。
櫛とともに封じられた記憶を呼び起こしたわたしには、ある種の義務が生じたように思う。
妹を、そしてこの身体を、瑞に、初代様にお返しせねばなるまい。
いつか、罪を償う日はきっと来る。
昭和30年 九月 神末 穂積
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作品名:月に吼えるもの 神末家綺談6 作家名:ひなた眞白