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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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月に吼えるもの 神末家綺談6

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「案ずることはないぞ。おぬしにも役目はある」
「な・・・」

射士が一斉に、少年に向けて矢を番えた弓を構える。

「なに、を・・・」

ちり、と背中に痛みを覚える。こちらに向けられているのは、明確な殺意だった。

「神に捧げられ、神に声を届けるために命を削るおまえたち兄妹は、人間ではない。人神(ヒトガミ)だ」

そうだ。だからこそ、みずはめは崇められ、尊ばれ、神聖視されているのだ。

「おまえはこの池の神に捧げられた供物である。供物であり、かつ力のある人神を殺して、その血でこの池を穢せば、水神の怒りは相当なものであろうな」
「!」
「自らの供物を人間が奪い、穢したとなれば、ここの主も沈黙を破らざるをえん」

少年は悟った。父は、この自分の死と血の穢れによって、水神の怒りを買い雨を降らそうというのだ。
身体が震える。声が出ない。このような明確な死を前にして、自分の感情をどう扱ってよいかわからない。

「おまえのような、ただ死を待つだけの人間でも、みずはめの役にたてるぞ。雨が降れば、あれは生涯巫女として寵愛されるであろう」

そうだ。それは少年の願いでもある。しかし。

「・・・わたしは、生きたい」

生きて再び、みずはめに会うのだ。そして今度こそ、なんのしがらみもない土地で、二人で生きていくのだ。お役目も何もかもを捨てて。そう約束したのだ。