月に吼えるもの 神末家綺談6
「わたくしの祈りは届きません・・・このままでは――」
続く言葉を飲み込んだのは、口にするのも恐ろしかったからだろうか。震える白い手を、少年は殆どない力で握る。
「安心おし・・・」
「兄様」
「わたしが必ず雨を降らせるから・・・」
だから、そんなふうに心を痛めなくてもよい。そう言いたかったのだが、みずはめは激しくかぶりを振るのだった。
「兄様はわかっておられない。わたくしは、雨など降らずともよいのです」
「みずはめ・・・」
「巫女としての地位も名誉も、豪奢な生活も必要ない。あなた様を失うことだけが怖いのです」
顔を上げたみずはめの目に、強い光が宿っているのを少年は見た。
「生きて、下さいまし」
みずはめは、かみ締めるように言った。
「どうか生きていて、兄様。生きて都を出られたら、家もお役目もすべてを捨てて、二人で・・・」
二人で逃げましょう。
みずはめは言った。そして懐から取り出したものを、少年の手に握らせた。
作品名:月に吼えるもの 神末家綺談6 作家名:ひなた眞白