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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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月に吼えるもの 神末家綺談6

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飾り櫛だった。竹で作られたこれは、みずはめが大切にしているものだった。

「これは、母上様の形見ではないか・・・」
「母上様、どうかどうか兄様をお守りくださいますよう・・・」

どうか、どうか、とみずはめは祈り続けながら、少年の埃の積もった髪を梳かす。涙声が少年の胸に落ちてくる。

二人で逃げる。
この役目を捨てて、生きたいように生きる。

そんなことを考えたこともなかった。妹が不自由せずに生きる道だけを見つめ続けてきたから。だがみずはめが、自由を望むのなら。

「・・・必ず、」

渇いた声で少年は呟いた。

「必ず生きて・・・二人で逃げよう・・・」

みずはめが顔を上げる。そして、涙でぬれた顔で頷くのだった。

命が惜しいと、少年は生まれて初めて思った。受け取った櫛を握り締める。

「・・・お行き、わたしは心配ないから、」
「兄様・・・」
「さあ」

お行き、と再び呟いた少年を、みずはめは再度抱きしめた。

「みずはめは、いつも兄様を思っておりまする」