500マイル
「そうとも。女の肌は柔らかいくせに、モチッとしていてよ。乳房を揉む時なんざ、皮膚の方から吸い付いてくるような女もいる。それに……」
ジョージも寝転んで天井のランタンを見つめた。炎の中に、彼は女の柔肌を見ているのだろうか。
「セックスは気持ちいいぞ。あの快感は忘れられねえ……」
ジョージは自分で喋りながら、やや興奮している。見れば股間はエレクトしている。兵士としてベトナムへ送られ、長い禁欲生活を強いられていることを考えれば、それも無理からぬことか。
だがマイケルは黙して語らぬ。ただランタンの炎を見つめているだけだ。その瞳が心なしか虚ろに見える。
「やめろよジョージ。気が変になりそうだ」
今まで寝たふりをしていたエリックが、堪り兼ねて口を挟んだ。
しかしそんなエリックやマイケルを気にも留めず、ジョージは続けた。
「そしてそこからが本番だ」
マイケルがつまらなそうに寝返りを打った。
「おい、人の話を聞いてるのか?!」
ジョージがマイケルの方を向いた。彼に手を伸ばそうとする。
タタタタタン!
銃声が突如として響いた。
「しまった。ゲリラだ!」
ジョージは跳び起き、機関銃に駆け寄った。エリックをはじめ、他の兵士も一斉に跳び起きた。しかしマイケルは一向に起き上がらない。
「うううーっ……」
マイケルは簡易ベッドに横たわったまま、腹部を押さえていた。彼の前の壁には弾痕がある。
「どうした? やられたかっ?!」
ジョージはマイケルに駆け寄ろうとする。しかしその間にも目に見えぬ速さで、弾が容赦なく小屋の中を通過していく。
「ガッテム!」
機関銃の赤外線スコープを覗き込み、ジョージが小屋の窓から外を伺う。ゲリラと思われる人影が、茂みの向こうで機関銃の弾を詰め替えている。どうやら旧式な銃器のようだ。
タタタタタン!
今度はジョージの機関銃が吠えた。茂みの向こうのゲリラは、機関銃を二度と構えることなく、地にひれ伏した。
「ボーイ! 大丈夫か? しっかりしろ!」
ジョージがマイケルに駆け寄った。マイケルは肩で息をしており、額には脂汗が滲んでいる。傷口を押さえている手は、真っ赤な血で染まっていた。その血は簡易ベッドの粗末な白い麻まで赤く染めている。
「いや、俺はもうだめだ……」