500マイル
ベトナムの夜は蒸し暑く、ジャングルを湿気で包んでいる。その夜は赤い月が空を支配していた。まるで血に染まったような月の色が、見る者に不吉な予感を抱かせる。取り巻く湿気といい、決して心地よい夜ではなかった。
その闇の中に、仄かな明かりが灯っている。どうやら粗末な小屋のようだ。中では逆光の人影。どうやら男、それも屈強そうな男たちの影が蠢いている。
マイケルは簡易ベッドに横たわると、一枚の写真を眺めた。
「ヘイ、ボーイ。また彼女の写真か?」
「ああ、キャサリンをいつも肌身離さず持っているから、こんな下らない戦争もやっていられるんだ。もっとも俺はまだ一人も敵を撃ったことがないがね……」
マイケルが美しい金髪の女性の写真を、愛しそうに眺めながら呟く。しかしジョージは肩をすくめた。
「お前の親父はサージェントだろう。しっかりしろよ」
ジョージがマイケルの脇に簡易ベッドを寄せた。
「どれ、俺にもキャサリンちゃんを拝ませてくれよ」
マイケルの手からジョージが写真を奪い取る。マイケルは抵抗もせず、その写真をジョージに渡した。
「ほう、えらい美人じゃないか。ちょっとキツそうだけどな……。うらやましいぜ。俺の女房なんざ、いつの間にかテキサスの牛みたいになっちまいやがった」
マイケルが思わず苦笑する。
「なあ、このキャサリンとは、もうヤッたのか?」
ジョージが写真を返しながら、身を乗り出す。マイケルは写真を受け取るとキャサリンとジョージを交互に見た。
「ヤッたって?」
「とぼけるな。ナニだよ。彼女を抱いたのかって?」
マイケルは写真を一旦、自分の胸に当てると、大きく深呼吸をした。
「いいや。このベトナム戦争が終わったら、結婚するんだ。それまでは……」
マイケルが天井に掛けられたランタンを見つめた。周りには大きな蛾が数匹、旋回している。
「そうか。お前らしいな。だけど女はいいぞ。あの時の感触は一度覚えたら忘れられねえ」
ジョージが少し下品に笑って、腰を振る。簡易ベッドがギシギシと軋んだ。
「そうか……」
しかしマイケルは写真を胸のポケットに仕舞うと、また天井のランタンを見つめた。その明かりの中にキャサリンの姿を思い描いているのだろうか。
そんな物思いに耽るマイケルをよそに、ジョージの猥褻な話は続く。
その闇の中に、仄かな明かりが灯っている。どうやら粗末な小屋のようだ。中では逆光の人影。どうやら男、それも屈強そうな男たちの影が蠢いている。
マイケルは簡易ベッドに横たわると、一枚の写真を眺めた。
「ヘイ、ボーイ。また彼女の写真か?」
「ああ、キャサリンをいつも肌身離さず持っているから、こんな下らない戦争もやっていられるんだ。もっとも俺はまだ一人も敵を撃ったことがないがね……」
マイケルが美しい金髪の女性の写真を、愛しそうに眺めながら呟く。しかしジョージは肩をすくめた。
「お前の親父はサージェントだろう。しっかりしろよ」
ジョージがマイケルの脇に簡易ベッドを寄せた。
「どれ、俺にもキャサリンちゃんを拝ませてくれよ」
マイケルの手からジョージが写真を奪い取る。マイケルは抵抗もせず、その写真をジョージに渡した。
「ほう、えらい美人じゃないか。ちょっとキツそうだけどな……。うらやましいぜ。俺の女房なんざ、いつの間にかテキサスの牛みたいになっちまいやがった」
マイケルが思わず苦笑する。
「なあ、このキャサリンとは、もうヤッたのか?」
ジョージが写真を返しながら、身を乗り出す。マイケルは写真を受け取るとキャサリンとジョージを交互に見た。
「ヤッたって?」
「とぼけるな。ナニだよ。彼女を抱いたのかって?」
マイケルは写真を一旦、自分の胸に当てると、大きく深呼吸をした。
「いいや。このベトナム戦争が終わったら、結婚するんだ。それまでは……」
マイケルが天井に掛けられたランタンを見つめた。周りには大きな蛾が数匹、旋回している。
「そうか。お前らしいな。だけど女はいいぞ。あの時の感触は一度覚えたら忘れられねえ」
ジョージが少し下品に笑って、腰を振る。簡易ベッドがギシギシと軋んだ。
「そうか……」
しかしマイケルは写真を胸のポケットに仕舞うと、また天井のランタンを見つめた。その明かりの中にキャサリンの姿を思い描いているのだろうか。
そんな物思いに耽るマイケルをよそに、ジョージの猥褻な話は続く。