500マイル
「何を弱気になっているんだ。帰ってキャサリンと一緒になるんだろう? 彼女を抱くまでは死ぬな!」
ジョージが虚ろに喘ぐマイケルを揺する。
「肝臓をやられた。お仕舞いだ……。それにな、俺はキャサリンと結婚できないのさ。俺も、俺の親父も軍人。彼女は反戦活動家なんだ。おれもこの戦争が終わったら、軍人をやめようと親父に相談しようと……。でも彼女は許してはくれない……」
そう言ったマイケルは血だらけの手で、胸のポケットからキャサリンの写真を取り出した。血で端の汚れた写真を眺めるマイケル。その瞳は既に焦点が合っていない。
「それから、実は彼女をもう抱いたんだ……。あんたの言う通り、最高だったよ……。今でも、好きなんだ……。だから、魂になって彼女のもとへ行くよ……。今から500マイルを飛び越えてね……」
マイケルの手からハラリと写真が落ちた。
「バカヤロー! 死ぬなーっ!」
ジョージはマイケルを何度も揺すったが、彼が二度と目を開けることはなかった。
窓から覗く月は、なおも赤い血を滴らせていた。
司令部と合流したジョージたちは、マイケルの遺体を引き渡した。マイケルの遺体は一度日本へ運ばれ、そこで清拭されてから本国へと送られるそうだ。
ジョージは司令部へキャサリンへの手紙を託した。
「マイケルは兵士として死なず。500マイルを越えてあなたのもとへ馳せる」
と記して。
(了)