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女教師と男子生徒、許されざる愛の果てに~シークレットガーデン

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 仮に長瀬が問題児だとしても、その問題の種を学校から追放すれば、事が解決するわけではない。追放された問題児はその後、どうなるのか。学校とは、教育とは本来、そういう問題のある子どもをこそ正しく教え導かなければならないのに、災いの種をつまみ出して棄てればそれで一件落着というのは、結局、自分たちだけが安泰であれば良いという利己主義ではないのか。
 それは真の教育とはいえないし、教育者とはいえない。
 心優は憤りに駆られながらも上辺だけは冷静にふるまった。沙織に礼を言って、その場を離れ向かったのはもちろん校長室である。
 ノックをすると、すぐに返事があった。
 校長はいつものように不似合いなほど大きな椅子にふんぞり返っている。心優は一礼し、部屋に入った。
 心優を認めた校長は露骨に嫌そうな表情をした。彼女はそれは見ないふりをして単刀直入に切り出した。
「校長先生、私の担任している生徒、長瀬大翔君が本日付けで退学処分になったと聞きましたが、これはどういうことでしょうか? 今、職員室ではその噂で持ちきりになっているというのに、私は担任でありながら、何も知らされておりません」
 校長の表情も声音も固かった。
「その取り乱し様では、既に詳細は知っているんだろう。今更、君がここに来て、どうなるものでもないよ。既に決まったことだ」
「しかし、彼が恐喝をしたとは到底、信じられません。ちゃんと調べたんでしょうか?」
 校長は背広のポケットからハンカチを出して、苛立たしげに額の汗を拭った。
「警察が調査に入ったんだ。証拠も証人も上がっている」
「判りました。そこまでおっしゃるなら、私が直接調べてみます」
 最早、校長を相手にしていても無駄だ。心優が背を向けようとした時、校長の声が追いかけてきた。
「止めたまえ、これは学園長の判断だ。一教師が奔走したところで、覆すことはできない。下手をすれば、君まで巻き添えを食うことになる。長瀬と君とのことで、君の処分を避けるためには、こうするしかなかった。君を巻き込みたくないと敢えて君の名を表に出さなかった甥の心根を汲んでやってくれ」
 刹那、心優は凍り付いた。 それでは、長瀬を密告したというのは本井なのか?
 彼女は振り向き、校長に向かって叫んだ。
「あなたたちは―何てことをするの?」
 最後は涙混じりの声になった。本井は生徒と関係を持ってしまった心優を長瀬から引き離すことで、二人の関係を終わらせるつもりだったのだ。心優を助けるつもりでやったことかもしれない。だが、一人の教師を救うために一人の生徒を犠牲にして、許されるはずがないのだ。
 生徒には未来がある。夢があった。そのすべてを彼らは心優一人を救うために冷酷にも切り捨てたのだ。
「本井先生はいますか?」
 職員室に戻った心優は本井を探した。
 とにかく本井に逢って問いただしてみないことには始まらなかった。しかし、そのことを察知してか、本井はその日、病欠の届けがあったとのことだった。
 学校内では誰がどこで聞き耳を立てているは判らない。心優は午前中、時間が過ぎるのをもどかしい想いでやり過ごした。四時限の終業を告げるベルが鳴り響く中、すぐに学校を飛び出した。
 近くではこれもまずいので、用心には用心を重ねてR駅まで二十分かけて歩いていった。駅前の小さな喫茶店に入り、人眼に立たない最奥のボックス席に陣取ると、すぐにバッグから携帯電話を取り出した。
 長瀬の携帯番号を押すと、発信音が続き、直に彼本人の声が聞こえた。
―もしもし。
 昨夜、別れたばかりなのに、もう十年も声を聞いていないような気がする。
―心優?
 彼の声を耳にした途端、心の中で張りつめていたものが一挙に弾けて、心優は嗚咽を洩らした。
―どうした? 泣いてる?
 退学処分を宣告されたばかりの当人とは信じられないような落ち着いた声だ。今朝の出来事はすべて悪い夢だったのではないかとさえ思えてくる。
 心優は泣きながら言った。
―あなた、よくそんなに落ち着いていられるわね。もう、知ってるんでしょう。
 流石に少し間があった。
―ああ、昨夜の中にはもう親父の方へ通達があったらしいから。
―やっぱり、本当だったのね。
―まっ、仕方ないだろ。心優と約束したから、学校も今朝から行くつもりでいたけどさ、出ていけって言われるのに居座ることもできないからな。
 笑い飛ばす彼の明るさが空元気だと判るだけに、心優はますます泣けてきた。
―もう、そんなこと言って。これからどうするの? 大学受験どころじゃなくなったのに。
 しばらくまた沈黙があり、意外に晴れやかな長瀬の声が聞こえた。
―他校へ編入学っていう手もあるし、最悪、通信制高校だってある。別にこれですべて終わりっていうわけじゃないから。
 心優は泣きながら言った。
―どんな形でも良いから、ちゃんと高校は卒業してね。
 今度は彼は即答した。
―うん、心優との約束は必ず守る。できれば、大学も行くつもりだから。
 それから他愛ない話を少しして、電話は切れた。
―いつまでもめそめそするんじゃないぞ。心優は泣き虫だから、心配なんだ。ちゃんとお昼を食べて、学校に戻るんだぞ?
 電話を切る前、彼はくどいほど心優に念を押した。
 これでは、どちらが保護者か判ったものではない。心優はハンカチで涙を拭きながら思った。
 長瀬の方が泣いてばかりいる心優より、よほど大人だ。ちゃんと退学後のことももう考えている。彼ならば大丈夫だろう。きっと約束を守って、高校は卒業してくれる。これからも心優は彼の夢を全力で応援していくつもりだった。たとえ退学になっても、長瀬はずっと心優の?担任の生徒?だから。もちろん、生徒であるとともに、愛する男でもあるわけだけれど。
後に長瀬自身から聞いた話によれば、やはり退学の原因となった恐喝というのは嘘だったらしい。心優と過ごした翌日、長瀬は学校近くのR駅の書店まで出てきた。そこのコミック売り場でひと悶着が起きた。
 R学園の中等部の学生たち二人がH高校の生徒に絡まれていたのである。相手がH高校の生徒だったことから、余計に騒ぎは大きくなった。H高校の不良グループはR学園高等部でも目立つ存在の長瀬を眼の仇にしていたからだ。しかも、そこにいたH高校の生徒三人はいずれもその不良グループの一員だった。
 R中学の生徒二人は部活帰りで制服姿なので、長瀬にもすぐに後輩だと知れた。その後輩たち二人がコミック売り場でH高校の生徒三人に脅されて漫画本を買う代金を巻き上げられている最中、長瀬は止めに入った。そこで、H高校の生徒が怒り出し、先に長瀬を殴ったのである。
 当然、やられて引っ込むような長瀬ではない。すぐに殴り返し、乱闘騒ぎになったところへ、店員の通報で警察がやってきて、関係した生徒たちは全員警察に連行された。が、取り調べはほんの形式程度のもので、H高校とR中学の生徒たちはすぐに帰された。
 何故か長瀬だけが長々と警察に留め置かれ、夜になって迎えにきた父親に連れられて警察から帰ることができた。その日だけは本宅に泊まるように言われたが、母のことが心配なので、彼は途中で降ろして貰った。車の中で彼は久しぶりに逢う父親から退学処分になったと知らされたのだ。