女教師と男子生徒、許されざる愛の果てに~シークレットガーデン
そのときのことを思い出したのか、せっかくの笑顔がまた強ばった。
これ以上雰囲気が悪くならない中にと、心優は肝心の話を切り出すことにした。
「それで、お母さんから話は聞いて貰えたかしら?」
「―やっぱ、その話をしに来たんだ」
「長瀬君の本当の気持ちを聞きたいの」
真っすぐ彼の眼を見つめると、何故か彼は頬を染めて狼狽えたように視線を逸らした。
「ずっと学校を休んでるだろう、それが俺の応え」
「でも、こんなことを続けていれば、進学どころか進級だって危なくなるわよ?」
「望むところだ」
何気なく放たれたそのひと言に、心優は息を呑んだ。
「まさか、長瀬君」
長瀬が自棄のように言い棄てた。
「俺は退学する。もう、学校には行かないよ」
「長瀬君!」
長瀬はやや自嘲気味に言った。
「先生、そろそろ帰った方が良い」
「だけど―」
「これ以上、ここにいると、俺は先生に何をするか判らない」
長瀬の瞳には傷ついた小動物のような弱々しい光が閃いていた。その言葉の意味が判らないまま、心優は夢中で言い募った。
「長瀬君、もう一度だけ考え直して。退学だなんて、あんまりだわ。ここまでせっかく頑張ってきたのに、勿体ないじゃない」
そこで、心優の声が震えた。
「もしかして、私のせい? 私がしつこく長瀬君に構おうとしたから、そのせいで学校が余計に嫌いになった?」
と、彼がふいに笑い出した。ひとしきり笑った後、彼は叫んだ。
「何て鈍い女! 俺は毎日、学校であんたの顔を見る度に馬鹿みたいに紅くなったり蒼くなったりしてたっていうのに。俺が学校に行きたくないのは確かにあんたのせいだが、あんたの考えてることは見当違いも良いとこ」
心優は謎かけのような科白にますますその意味を掴みかねて、眼をまたたかせた。
「判らない、長瀬君の言ってることの意味が判らないの」
自分が彼をそこまで困らせるようなことを何かしたのだろうか? 自分でも知らない中に彼を傷つけていた?
衝撃で蒼褪め震える心優に、長瀬がズイと身を乗り出して迫ってきた。
「その応えを教えてやろうか、今、ここで」
言葉とともに視界が反転して、心優は悲鳴を上げた。それでも、すり切れた畳に押し倒され、上からのしかかられても、まだ我が身に起こったことが現実として認識できてはいなかった。
それが熱い感触を唇に押しつけられた時、初めて現実として意識できた。
「―!!」
長瀬にキスされているのだと判り、心優は狼狽した。ありったけの力で彼の身体を押し返そうとするも、やはり力の差は歴然としている。
角度を変えた口づけは次第に深くなり、呼吸すら奪われる。舌を差し入れられ、拒もうとしても、あっさりと心優の舌も絡め取られた。歯茎を舐められ、口の中を縦横無尽に蹂躙される。
漸く唇が離れ、心優は瞳に涙を滲ませて身を起こそうとした。だが、無情にも彼に軽く突き飛ばされて、再び畳に転んだ。
「何をするの!」
抗議して、また上半身を起こそうとして、また突き飛ばされる。
「私、もう帰るから」
口を開けば泣きそうになったが、ここは教師らしく毅然とした態度を取ることで切り抜けなければと思った。
「ねえ、もう帰りたいの。帰らせて」
やっと三度目に身体を起こすと、彼が暗い眼で見つめた。
「帰さない」
その言葉が合図となったかのように、彼が再び覆い被さってくる。
「いやっ、止めて。長瀬君、お願いだから、こんなこと、止めて」
とうとう泣き出した心優のTシャツの裾をを長瀬は無造作に引き上げた。淡いピンクの小花が散ったブラも同じように引き上げようとしたが、邪魔になったのか、彼女の背に手を回して、簡単にフォックを外した。
ゴミを捨てるように外したブラを放り投げ、今度はジーパンのジッパーを降ろす。
「面倒だな」
呟いたかと思うと、ブラとお揃いの小さなショーツはジーパンと一緒に一挙に引き下ろされた。
「いやーっ」
心優は泣きじゃくりながら烈しく嫌々をするように首を振った。
何で、こんなことになったのだろう。自分の何がいけなかった? 彼を傷つけて怒らせてしまったから?
心優は大粒の涙を零しながら、考えた。
長瀬はたくし上げたTシャツを頭から引き抜こうとして、考えが変わったらしい。両手首のところで止まったTシャツを手慣れた様子でくるまると巻いて結んだ。
「あ―」
心優は怯え切った瞳で真上に迫った彼の顔を見つめた。丁度、Tシャツで両手首を持ち上げて縛られたような形になっているのだ。彼がこれからしようとしていることは明らかだ。
「長瀬君、お願いだから、止めて」
最早、教師の威厳など保っていられない。弱々しい哀願の声を洩らすと、気のせいか、彼の双眸に閃く強い光が更に濃くなった。
「ね、これを解いて、自由にしてちょうだい」
何とか拘束された手首を解こうと力をこめて揺すってみるが、ビクともしない。逆に両手を持ち上げたせいで、豊かな胸を余計に突き出す格好になっていることに心優は気づかない。
その体勢で身体を揺すれば、豊満な乳房を殊更彼に見せつけるだけだ。誘うように揺れる乳房を見ていた彼の瞳に凶暴な光がまたたいた。
「先生が俺を殴った時、俺は警告したはずだ。これ以上、しつこく俺に纏いついたら、後悔することになると」
「長瀬君、私、こんなことになるとは」
やはり、生徒とはいえ男性と二人きりになったことがまずかったのか。恐怖に震えながら落とした呟きはまた烈しいキスで封じ込められた。
やっと口づけを解かれて息をつく間もなくかった。息も荒く自分の胸に顔を伏せてきた彼が薄紅色のグミのような乳首を口に銜えた時、心優は眼を零れ落ちんばかりに見開いた。
「いや―!」
狭い室内に心優のすすり泣きが響いている。冷房もない六月初めのアパートはかなり暑かった。さんざん泣いて暴れたため、心優は汗だくになっている。つい今し方まで彼女を組み敷いていた長瀬もまた逞しい裸身に汗の玉を浮かべていた。
長瀬はまるで飢えた肉食獣が捕獲した獲物を屠るように心優の身体をとことん喰らい尽くした。本当にこのまますべて身体ごと食べられてしまうのではないかと思いそうになるくらいの烈しさだった。
長瀬が心優の長い髪に手を伸ばし、そのひと房を掬った。もう一方の手は汗で額と頬に貼り付いた髪をひと筋、また、ひと筋と払ってやる。凶暴な獣のような交わりを強いた男にしては極めて優しい手つきだ。
だが、心優は彼の手をぞんざいに払いのけた。
「触らないで」
「―先生」
心優はまだしゃくり上げながら、それでも気丈に言い放った。
「私はこんなことをするつもりじゃなかった。長瀬君に学校に来て貰おうと話をするつもりだったのに」
「ごめん」
長瀬がまた手を伸ばそうとし、心優は怯えたようにビクリと後ずさった。刹那、彼の黒い瞳に傷ついたような光が浮かぶ。
嫌がり泣き叫ぶ自分を無理に犯したのはこの男のはずなのに、何故、彼のこんな瞳を見て自分の方が罪悪感を感じてしまうのだろう。
「悪かったよ。何を言っても、許して貰えるとは思ってないけど」
作品名:女教師と男子生徒、許されざる愛の果てに~シークレットガーデン 作家名:東 めぐみ