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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

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「若先生、」

入り口から女性の声がし、ここです、と紫暮が答える。先ほどのお手伝いさんが、火を灯した蝋燭を燭台に載せてやってきた。

「火を」
「ありがとうございます」
「お気をつけて」
「うん」

燭台を伊吹に預けると、紫暮が持っていた鍵で南京錠を外した。

「この先に、人工の光はご法度でね。さあ行こうか。暗いから、十分用心おしよ」

扉が開かれる。暗い暗い穴のそこに、梯子が続いている。片手で燭台を持った紫暮に続き、伊吹もゆっくりとそこを降りていく。冷たい空気がまとわりつき、まるで違う世界に迷い込んだかのような錯覚に陥る。まるで地獄に続いているような。

ほどなくして地面に降り立った。ごつごつした岩肌の上に。

「・・・なんですか、ここ・・・」

伊吹は呆然と呟く。洞窟、だった。剥き出しの岩肌が足元にある。蝋燭に照らされたそこには、先ほどのような、整然と並んだ書架のようなものはない。木枠のようなものに、和綴じやら書籍やらが押し込まれて歪んでいた。地表から、高い天に向けてひしめく書。それが、細長い通路のように続く洞窟のずっと奥まで続いているのだ。

「崩れそうだろう。この空間じたいに呪(しゅ)がかけられているから心配はないよ」

紫暮が奥へと進みながら、岩壁に設置された燭台に蝋燭で火を灯していく。淡い光に浮かび上がってくる洞窟の中。伊吹はその異様さにのまれた。乱雑につっこまれている書の数々。須丸の関係者でも、閲覧には特別な許可が必要だという。世に出れば、歴史がひっくり返るといわれる機密中の機密が眠る空間。伊吹はいわゆる顔パスだが、紫暮は事前に清香から許可をもらって今日ここへ立ち入ることができたと言う。

「どうあってもこの洞窟の中からは、一冊たりとも持ち出せない。窃盗の心配はないが、虫干しもできなくてね」
「読む者を選ぶのだと、以前言っていましたね」