帰れない森 神末家綺談5
「こっちだよ」
広い庭を過ぎ、雑木林へ続く道へと入る。離れらしき建物があり、そこにも小奇麗な庭があった。広大な敷地だと改めて思う。
「ここが・・・」
池の対岸に、蔵があった。立派な土壁の蔵だった。古い佇まいはまるで立ちはだかる門番のようで、それだけで圧倒されそうになる。紫暮が巨大な南京錠の鍵を外す。ぎぎい、と地に響くような音とともに扉が開いた。
「すごい・・・」
中には無数の書架。壁にも、二階にも、高い天井に至るまで、本が敷き詰められている。広い空間のはずなのに、立ち並ぶ書架がひしめきあっていて、ものすごい圧迫感だった。至るところにはしごもある。歴史書や古書が多いのか、背表紙の漢字には読めないものもあった。
「ここは大したことないんだ。蔵書の数も、大学図書館程度かな」
「十分すごいです」
「もっとすごいものを見せてあげるよ。きみの知りたい情報は、ここにはない。おいで」
紫暮に誘われ、書庫の奥へと進む。奥まった場所、土壁が剥き出しのその空間で、紫暮は立ち止まった。
「ご覧。この下だ」
木の床に、観音開きの古い扉があった。鉄製の丸い持ち手が二つ。その輪に、またしても南京錠が通してある。
作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白