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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

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まじないの書庫



京都の残暑は思ったより厳しく、京都駅に降り立った伊吹は立ちくらみを覚える。夏、祇園祭に来て以来だ。中央改札を抜けると、背の高い紫暮(しぐれ)の姿が見えた。相変わらずの爽やか好青年だが、瑞と同格に嫌味の応酬ができるところを見ると、きつねの皮を被った狼かもしれない。それが事実であっても、伊吹には頼れる兄貴分であることに変わりはないのだが。

「無事について何よりだ。お疲れさん」

伊吹の、三泊分の荷物が詰まったボストンバッグを横からさりげなく取りながら、彼は笑う。

「乗り換えがうまくできるか焦りました。こっちは暑いですね」
「残暑だね。しかし秋を感じる間もなくすぐに厳しい冷え込みがやってくる」

須丸(すまる)の当主をいずれ継ぐと言われているこの青年とは、夏の神隠し事件以来の付き合いである。須丸文庫の閲覧を薦めてくれたのも、清香に口利きをしてくれたのも紫暮だった。協力的というよりは、彼自身も瑞についての研究を独自に行っているからだと伊吹は思う。

「瑞のことを知りに来ました」
「うん。準備は出来ている」

京都の街中を、紫暮の運転する車が進む。連休の京都は混んでいる。紅葉にはまだ早いが、京都は観光地なので年中このような感じだと紫暮は言う。