帰れない森 神末家綺談5
夢を見ている。森の夢。夜の森に、大きな月。
ここへ来るのは何度目だろう。
ここは森。
帰れない森。
伊吹は森に向けて歩き出す。覚悟を決めて。月明かりが降り注ぐ木々の合間をすり抜けて、あの池を目指す。さくさくと草を踏む裸足。冷たさも温かさも感じない。時間の止まった森。死んでいる森。
「・・・いた、」
果たして昨夜と同じように、池のほとりには黒い影のような背中を向けた人物と、横変わる瑞の死体があった。池に、鏡のように映った月。横たわる瑞には月の光も祝福も降り注がない。
「・・・おまえは、誰だ」
背中に語りかける。黒い人影は屈みこみ、うごめいている。
「誰だ!何してるんだ!」
声を荒げると、影はぴたりと動きをとめた。
グチャ、
不愉快な音が耳に届く。おぞましく不吉な・・・。ぴん、と空気が張り詰めた。
「――何をしているか、って?」
影はこちらを向かないまま口を開いた。聞いたことのある、声だった。伊吹は恐怖に足が竦んだ。動けない。これは、この声は・・・!
作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白