帰れない森 神末家綺談5
青ざめたまま去っていく背中を見送り、紫暮は秋空を仰ぐ。そして思った。自分はすごい瞬間に立ち会っているのだと。長い長い一族の歴史の中にあって、その変換期に生まれ、その変化を見届けることになるのだから。
(あの書物がもたらす事実は、俺自身をどう変えるかな・・・)
須丸の跡継ぎ候補として、幼い頃から様々な教育を受けてきた。大学生という肩書きを持ちながらも、いまの紫暮が当主である清香の右腕。若くして頭角を現したのだと、一族の者は褒めそやした。当然だと、紫暮は思ってきた。清香には子どもも孫も多いが、どの跡継ぎ候補よりも、自分が一番努力し、力を欲してきたと自負しているからだ。誰よりも一族のことを知っている、その役目の重さを理解しているのだと。
(だがそれは、なんのためだったのだろう・・・)
伊吹と瑞を見ていると、紫暮の欲する強大な力を持ちあわせながらも、その力の及ばないものを求めて迷走しているように見えた。幼く愚かな二人。
彼らの出会いは、心を通じ合わせた結果は、未来をどう変えてしまうのだろう。
怖いような、だけどわくわくとした期待も感じており、結局のところ自分は好奇心の塊なのだと、紫暮は自嘲気味に一人笑う。
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作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白