帰れない森 神末家綺談5
「ハアッ、ハアッ、ハアッ・・・くっそ・・・」
やはり、夢か。なんという夢だろう。だけど、夢にしてはやけにリアルで、髪に手のぬくもりが残っているような気さえする。
「大丈夫かい」
「・・・はい、すみません驚かせて」
地下にこもりっぱなしで、気がふれてしまったと思われただろうか・・・。さすがにいまの夢のことを話すのは憚られた。
「誰も、ここに入ってませんよね?」
首に巻いた手ぬぐいで汗を拭きながら、紫暮が頷く。
「俺はずっとここで草むしりしてたけど・・・誰も来ていないよ」
「そうですよね・・・」
やっぱり夢か。寝ぼけていたのだろう。
「もうお昼にしようか」
「あ、はい・・・じゃあ俺、下片付けていきます」
息を整えながら地下へ戻る。そして唐突に思い出す。
「鍵っ・・・!」
ズボンのポケットに手を突っ込み、伊吹は全身が総毛だつのを感じた。
冷たく、堅い感触。夢で見たあの鍵が、伊吹の手のひらにある。こんなもの、自分で入れた覚えがない。ではやはり、あの夢の瑞が?
(・・・紫暮さんが言っていた。あの森の夢は、瑞が無意識に見せているものだと)
瑞は心のどこかで、隠されている己の事実を伊吹に知ってもらいたいと感じている。それが無意識の形となって現れ、こうして鍵を運んできたとでも言うのか?
衝撃的な体験だ。夢と現実が繋がった?それとも、あの夢が現実だったとでもいうのか?
伊吹は鍵を握り締め、夢で瑞が隠した箱を探す。
作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白