帰れない森 神末家綺談5
「あった・・・」
果たしてそれは、夢で見たとおりの場所に置かれていた。漆塗りの箱。夢と同じだ。違うのは、巻かれている南京錠と鎖が、夢で見たものよりもずっとずっと古く、さび付いていることだけ。あの夢を見て五分と経っていない。まるで、何十年も開けられていないような・・・。
「この中に」
秘密が眠っているというのだろうか。
不思議な感覚と一緒に箱を持ち上げる。重い。これはまるでパンドラの箱だ。
箱の重みは、伊吹と瑞の間に介在する避けられぬ別れを連想させる。
(だめだ。迷わない)
決めたはずだ。躊躇などしてはいられない。
.
作品名:帰れない森 神末家綺談5 作家名:ひなた眞白