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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

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あれ、と思う。一瞬意識が途切れたかと思ったら、伊吹は書庫の入り口に立っていた。まるでたった今、梯子を降りてやってきたかのように。

(おかしいな、俺、疲れて奥の畳で寝そべって、それから・・・)

見慣れた洞窟内部と、倒壊しそうに歪んだ木枠にひしめく、膨大な書物たち。それは別段変わった光景ではないのに、なにか違和感がある。

(・・・あれ?)

目線が、何だか高い気がする。伊吹の目に入ったのは、足元。勝手に視線が下を向く。赤いコンバースを履いた足元が見えた。長い足。視界の前で揺れる、ミルクティー色の前髪。

(えっ・・・これ、俺じゃない)

瑞だ、と伊吹は気づく。

(え?え?なんで?)

意思に反して歩き出す。瑞の身体に、伊吹の意識が乗り移っている、とでもいうのだろうか。他人の視界から世界を見ている、そんな感覚に近い。
まっすぐに迷いなく、その足は奥へと進んでいく。やはりこれは伊吹の意思ではない。瑞(伊吹というべきか?)は両手に何か持っている。漆塗りの、ずっしりとした箱のようなもの。蓋をしたその箱には厳重に鎖が巻いてある。

(なんだろう、これ・・・)

瑞は屈み込むと、その箱を並ぶ書架の奥まった場所にそっと置いた。そして懐から取り出した南京錠を、巻かれた鎖にはめる。

(何が入ってるんだろう・・・)

南京錠の鍵を持ち、瑞が立ち上がる。そして再び歩き出す。洞窟の、奥へ奥へと。
そうして辿り着いた先で見たのは、畳で眠りこけている伊吹の姿だった。