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ひなた眞白
ひなた眞白
novelistID. 49014
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帰れない森 神末家綺談5

INDEX|25ページ/40ページ|

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「よくお聞き、瑞」

静かな夜に包まれた瑞の横顔を見つめながら、穂積は続ける。

「伊吹がすべてを知れば、もう今までのように幸福には暮らせないだろう」

悲しみに、苦しみに、後悔に、痛みに、その目が見えなくなるだろう。

「別れよりもつらい別離を待つだけの、悲しみの日々が待っているだろう。それでも、消えないはずだ。おまえの心に、魂に沁みこんだ愛情や、憐憫や、幸福の記憶は」

頭を撫でてやる。幼い子どもにするように。

「あの子はそれでも、笑顔でいるとおまえに約束した。大丈夫、伊吹は決して約束を違えたりしない。ちゃんと笑顔で、ここに戻ってくる。そしておまえのそばで笑うだろう。おまえの願いが叶うその瞬間まで」

だから、怖がることは、ないんだよ。

「伊吹を信じてやってくれ。これしきのことでへこたれるような弱い存在ならば、おまえは心を開かなかったはずだ」

俯いた瑞を抱き寄せる。思えば、子どもを持つことが許されなかった穂積にとって、瑞はわが子同様の存在なのかもしれない。子どもを持つことはなかったので、比較のしようがないのだけれど。それでも、湧き上がる枯渇する気配もないこの愛情は、まぎれもなく、瑞へと向けられているのだ。

「伊吹を信じてやれ。信じてその手を重ねた己のこともだ。つらくても怖くても、不安に負けてはいけないよ。おまえは優しく強い子だ。わたしが、そんなふうに育てたんだから、大丈夫」